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ドント・ウォーリー・ダーリンのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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夢のように完璧な世界は、誰の見た夢だったのか。『ステップフォード・ワイフ』『ボディ・スナッチャー』や『時計じかけのオレンジ』に『ローズマリーの赤ちゃん』、更に『マッドマックス怒りのデスロード』まで1本に詰め込んだようなSFスリラー。
究極のサバービアと「ヴィクトリー計画」、核実験場を想起する砂漠に建つ建造物とアトミック・ブロンドたちが醸す、ミッドセンチュリーにありがちな終末観。そこに何が隠されているのか、終盤までかなり引っ張ってどうするのかなと思ったら、割とシンプルに着地した。一方の求める幸せのためにもう一方の自由意志を奪って従属させた社会が、ミッドセンチュリーの姿形(当時当たり前だった価値観)で象徴されているということ(だからあのそれっぽいライフスタイルに詰めが甘く見えた訳だ)。それはとてもグロテスクな現実の鏡。
妻フローレンス・ピューが「人形の家」から覚醒してゆくのだけど、元から彼女は彼女であり、結婚は人生を乗っ取られた墓場。一方、やるしか能のない木偶の坊で主体性ない夫ハリー・スタイルズにとっては、結婚は支配と勝利。「愛してる」はDV男の常套句だし、女を「満足させる」という認識も歪んでる。その悪しき願望と欲望をまた支配するのが、クリス・パイン演じる指導者で、これも現実的な構図。でも最後のジェンマ・チャンだけはよくわかんなかった。
監督(出演も)オリヴィア・ワイルドは『ブックスマート』と打って変わって、脚本よりプロダクション・デザイン、ヴィジュアル&イメージで物語るのはなかなか野心的。ちょっとキューブリック風に意識して凝りすぎた気もするが、バズビー・バークレー様式の群舞ショットがとてもきれい(美しすぎるほど)だ。
でも、やっぱまたもコミューンで超常体験するフローレンス・ピューありき。ピューだから観てて面白い、ピューのリアクション演技にかかる比重がすごく大きい。それに比べてダンスシーン以外、映画で観るハリー・スタイルズは何故かいつもスター性が消えちゃうなあ。
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