石

胸騒ぎの石のレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
4.1
胸糞ホラー映画と言われる今作ですが 全体としては気不味い 居心地が悪いと言った感情が多い


この映画に感じたテーマや対立構造はいくつかあって、まずこんな感じ
「異文化、異教徒コミュニケーション」
「去勢」「平和ボケ」
「田舎と都会」「野生と家畜」「自然と文明」「善意と悪意」
「繊細さんとガサツさん」「捕食者と被捕食者」「狩人と獲物」

他にも田舎旦那の髪型とか論理とか石打ちとかなんかのモチーフってもしかして...とかまぁ明言は避けますが...なんとなく移民問題とかについても触れようとしてないかコレ、とも思ったりはしました
移民に苦しむ北欧の映画ですし...


前半では夫婦の常識や基準の違いによって生じた違和感によるすれ違いを描いており、ここだけでもそこそこ見応えはある
この辺までなら現実でもありそうな嫌な質感のズレ具合なんですよね
ていうか僕がノンデリ田舎サイドで元カノが繊細都会サイドみたいなズレ方により同棲破綻した事があるので正直共感と既視感しかなかったです

この辺の描写はホラーとしては全然怖く無いんですが
ずっとギリギリ言える人は言えるけど言えない人は言えないくらい酷さで居心地の悪さが続く

子供にキレて貰った人魚のコップを割っちゃう所なんかもう本当に最悪でした
俺だったらあそこで絶対帰ってる


都会夫婦は誠実でポリコレ的で現代文明で先進的とされる様な配慮と性善説で動いている
しかし社会に対して適合する為に自分で自分を縛り付けて抑圧しており、Noの言えない身体にもなってしまっている
とても""善良""な夫婦です
都会嫁のあの感じは正直かなり嫌いなタイプですが....

それに反して田舎夫婦はガサツで野蛮でノンデリで、社会的・知的誠実さには欠けており暴力的で虚言癖でもありながらも自分の声というか欲求には敏感で、自然体で自由なんですよね

日本人は田舎夫婦見ると特に嫌な気持ちになりやすいと思う



※以下ネタバレ※



大枠でのストーリーとしてはなんら目新しくも無い、日本でも古来より山姥がやってるタイプの犯行なんですが
加害者夫婦の犯行の詰めはかなり激甘で、明らかに抵抗したり逃げられたタイミングは多数あるのに言うべき時に言えず、戦うべき時に戦えず、ここで動ければ逃げれてるじゃん!勝ててるじゃん!って時になっても全然身体が動かずどんどん地獄に堕ちていくのがもどかしい
スマホ広告でクソゲーのイライラ選択肢見てる時みたいな気分で最高でした

それはそれとして全てが腑に落ちる そりゃそうなるよね という部分も多い

原因は双方のキャラ設定と細かな描写にある様な気がします

自分の魂の声に従えない事で命も含めた全てを奪われてしまう
完全に去勢されて家畜化されちゃっているんですよね

序盤の何のリスクも無いんだし、という友人夫婦?との会話も平和ボケ〜って感じですよね


また自分が家畜化、と言うテーマを特に感じたシーンなのが写真やスーツケース達で埋め尽くされた犯行の証拠の数々を観るシーン

背景説明の為という側面もあるとは思われますが演出上凄い良かったと思います


感覚的には狩った獲物の剥製をコレクションしたり昔のペットや家畜の写真を飾っている感覚に近いんだろうな〜とか思ったり
あくまで獲物で命を奪う立場にあるけどそれはそれとしてそいつらの事を大事にしてなかった訳では無いし、頂くからには礼を払って大事にするしそいつらとの思い出も取っておく

昔自分の母親から鶏飼ってた話をよく聞いたんですが、最後には〆て食べたと言いつつも可愛かったとか大事にしてたっぽい言及してて、なんかそれに近いんじゃ無いかなと
大事にするはするけどそれとしてそいつらの生殺与奪の権を握ってるのはこっちだぜと言う態度が出ているのがあのシーンなのでは無いのかなと、そう言った点で家畜化と言うワードを強く想起しました




原題のSpeak No Evilは
日本の三猿🙈🙊🙉で言う「言わざる」に当たる意味との事
一見舌を切られて主張が出来なくなったアーベル君がこのお題目を象徴している様に見えますが、本質的には己が権利を主張するべき時にしない事で悪意によって自分の領域がドンドン侵され、汚され、奪われる所でそれが本当に正しいの?っていう話をしている様に思えます

あんまり我慢してると言おうと思った頃には舌切られてるかもよ?っていうお話でもあるかなと
もしくは大人が抵抗しないと実際に言論を奪われるのは子供達だよ と言う話でもあるのかな とも
ペットが吠えない様に喉に手術しちゃう人間とか見る事ありますが、アレにも似てる気がします


そして言われるがままなされるがまま行き着いた先での
「どうしてこんな事を」
「君が差し出した」
というやり取りはかなり印象的でした
母親を呼ぶ娘の声に耳を傾けず情事に耽るシーンなど分かり易いですが、そのほかにもこの体たらくでは差し出していると言われても仕方がないよな....と言った弱さ不甲斐なさを想起

性善説だけで接するだけではダメで、おかしな相手に対してはNoを言える様になろうね、と言った啓蒙と現代社会への風刺を感じます
メチャクチャ嫌な気分になりながらも、確実に凄く楽しめた映画でした
石