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ザ・ホエールのkaoruiのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0
海の底に閉じ込められたような部屋の中に雨音がザーと響く。悔恨と絶望の底で緩慢な死を自ら受け入れた主人公は海の底で朽ちつつある。
エッセイが何度も反復されるが、エッセイを書くことは対象を通して創作者の真実の姿を晒す行為でもある。

娘との邂逅を通して、彼女のしたためた文章を通して、それは一見無骨で世を拗ねたようなものではあるけれど、彼女の中に芽吹く確かなものを見出す。
そのままで良い。父から娘への海より深い愛!
日の光でいっぱいの中、巨大な鯨が海に帰っていく姿を見た。

新興宗教の宣教師との絡みは登場人物全てに関係が深すぎて逆に浮いた印象で、
娘の真実の吐露に救われる展開も安易すぎるように感じたが、世の終わりを憂う新興宗教に対して今を生きる娘を対置する。

一人の人間の小さな復讐心など呑み込んでしまう巨大な生を生きる化け物である白鯨に人生を賭けることは先延ばしすること。
娘の若々しい魂の鼓動が僕にも共鳴した。
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