nana

ザ・ホエールのnanaのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
-
今年のアカデミー賞で主演男優賞とメイクアップ・ヘアスタイリング賞を受賞した作品。
ブレンダン・フレイザー自身もわりとガタイがいいと思いますが、特殊メイクで体重272キロの男へと変貌を遂げています。
創作物の中で太ったキャラクターが出てくる場合、それを怪物のように描くことはファットフォビアにもなりかねませんが、本作はそうならないギリギリのラインで描いていると思います。

病院へ行かず、ひとり家にこもり、看護師のケアを受けながらも何かを貪るように食べ続けるチャーリー。
美味しく味わって食べているというよりは、無心に何かを胃に運び続けているといった感じで、これはもしかしたら彼なりのゆっくりと時間をかけた自殺なのかもしれません。
彼は自身の過去を悔いており、自責の念にとらわれてもいる。いっそひと思いに、というよりはじりじりと時間をかけて自分を痛めつけているのでしょうか。
監督ダーレン・アロノフスキーの作品ではいつも、主人公が自らの肉体を犠牲にしながら自身を追い詰めるようなシーンがあります。

予告やあらすじを見た感じ、主演俳優自身のキャリア復活という点でもダーレンの過去作『レスラー』と似た感じかな?と思っていましたが、想像以上に似てたし、さらに『レスラー』のその先に行った感じもありました。

ひとつの部屋だけで物語が進む密室劇、会話劇なのに全く飽きない。
もとが舞台なので設定的にも当然舞台っぽくなりがちですが、今作はちゃんと映画的。

恋、家族、宗教、文学、さまざまなものが結びつくこの物語は、誰かを救うこと、または自分自身を救うことの難しさを描いています。
これであの人を救えた、これで自分は救われた…と思ったとしても、それは自分のひとりよがりなものかもしれない、単なる妄想かもしれない。
人間というものは、結局自分のことだけを考えている勝手な生き物かもしれない。
それでも、かりそめかもしれないその「救い」に、生きた価値を見出すのです。
nana

nana