ヘイミッチ

ザ・ホエールのヘイミッチのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

正直さを求める理由
もしやここで言う正直さとは相手に対しての真摯さという意味か。

よく嫌いは無関心よりマシと云うけど、それはつまり嫌いになるほど相手を気にしているからで、罵声や叱咤は裏腹に捨てきれない希望や、断ち切れない関係性を意味するのかもしれない。そうすると、親友のリズの怒りがなんと愛情に満ち、エリーの非行が希望に満ちていたかに気付く。

正直さは宣教師の彼やピザ配達の青年やリモート授業の生徒にまで及び、そのリアクションを見た時に、裏切りを感じると同時にチャーリーが意外にも多くの人に気を掛けられていた事がわかる。

基本これといった特徴のない平穏無事な生活を送っている自分は、どれだけの人に正直であり、どれだけの人に正直に接されているだろうか。
チャーリーはモヴィーディックの如きおぞましい体になる事で、人から正直さを引き出すことができるようになったのかも知れない。

白鯨といえば実家に岩波文庫の上中下巻があって、幼い自分は力強い鯨の版画の表紙に惹かれて挿絵のあるページだけを眺めてた事があった。その中に白鯨によって足を失ったエイハブ船長の挿絵があって、義足を見たことがなかった私は衝撃を受けて何度もそのページを訪れた。手製の栞をいろんな本に忍ばせ父に見つけてもらうのが好きだったので、当時父の汗臭い足をテーマにした足型の栞をそのページに挟んでいて、その事を今回思い出した。

だからなんだって思い出だけども、普段感動系ヒューマンドラマを見ない自分が劇場に足を運んだ理由の一つとして、白鯨に関したこんな父とのやりとりがあって、はたまた劇中にも白鯨を介した主人公と娘のやりとりがあって...。その関係性の差異にどうしようもなく感慨深くなってしまう。

今作の登場人物はもれなく特殊な関係性なので共感はしづらいが、劇中何度も胸が詰まり目元を濡らしてエンドロールを見届けたので、確かに何かを感じたに違いない。