佐世保バーガーbot

ハッチング―孵化―の佐世保バーガーbotのネタバレレビュー・内容・結末

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

胸糞映画大好きセンサーに引っかかったので公開日に鑑賞。結果無茶苦茶好きなヤツでした。
こっからめちゃくちゃネタバレします。

自分達の生活の様子を撮影し投稿し続ける母に、映り込んでいる自分の体操の演技にミスがある事を伝えると そんなものはカットしたらいい と。この台詞が母の思想の根源的なもの。

母に敬意と畏怖を抱いているティンヤは不安、焦燥感、嫉妬、不信感、苛立ち、悲しみを表に出してはいけないと考えているのか溜め込み続ける。拾った卵はそれとリンクするように大きくなり、やがて鳥とも人とも形容し難い醜い化け物が生まれる。

『それ』がティンヤのゲロしか食べないのは自分では目を背けたいような負の感情を得てそれが育っていくことの暗喩かなー。と同時にある種潔癖を演じながら生きていたティンヤにとっては自分の汚い部分も受容してくれるそれが愛おしくなっていく。
苦しんでる自分に酔うような感覚、凄く分かる。

抑圧した自分の感情とリンクしてそれを発散するようにどんどん攻撃的になる『それ』。
そしてその姿は日毎にティンヤ自身に近づいていく。

正直序盤の方は
「どうせ自分が寝てる間に第二の人格が生まれてました的な奴なんでしょ」
なんて思ってたけど、『それ』はちゃんと形を持って存在している。
ティンヤに明らかなアリバイがあるシーンや、『それ』と一緒にいる所を他人に見られるシーンが最後の方まで無いんだけどこういうありきたりな展開を敢えてミスリードさせてんのかも。

そんでラストシーン。
『それ』が友達、母の浮気相手の子供、母を襲うようになりティンヤは『それ』に消えて欲しいと思う。
母は自分の事も愛する娘も守る為に包丁で『それ』を追い詰めるが『それ』が傷付けられると共に自分も傷つく事を思い出したティンヤは、母に攻撃を辞めるよう懇願するがおっかさは聞いちゃいない。衝動的に庇ったティンヤ自身の方が母の手によって命を落としてしまう。
ティンヤの中で母性も育っていたっつーシーンなのか、或いは醜い部分も含めて自分だから本当は母にこそ認めて欲しかったっつーメッセージなのか。

愛する娘を失いショックで泣き叫ぶ母。
ティンヤとリンクしている為同じようなダメージを負った『それ』だったが、ティンヤの口から流れた血を呑み息を吹き返す。

みるみる傷が塞がり肌も綺麗になり完全にティンヤとなる『それ』。
母はその様子を見て安堵したかのような笑顔を見せ、映画は終わる。

母に自分の内面とも向き合って欲しかったティンヤに対して、母の方は『自分とそっくりでステータスも高くて可愛い娘』を愛していたから、中身は化け物ガワだけティンヤでも十分『娘』として機能するって事なのかな。だから安堵の笑みが溢れた、と思いました。

ティンヤが命を失うくらい大事にしていたアイデンティティーが尊敬していた母には最後の最後まで見向きもされない、って感じがしてとっても胸糞が悪かった。
凄く好きです。