Omizu

グッド・ナースのOmizuのレビュー・感想・評価

グッド・ナース(2022年製作の映画)
3.9
『ある戦争』のトビアス・リンホルム監督初の英語映画。実在のシリアル・キラーであるチャールズ・カレンと告発者にして同僚のエイミーをオスカー俳優であるエディ・レッドメイン、ジェシカ・チャステインが演じた。エディ・レッドメインは来年のアカデミー助演男優賞有力候補と言われている。

寒色をシックに映した美しい撮影、オスカー俳優二人による演技合戦が素晴らしい。トビアス・リンホルムの落ち着いたドライな演出も素晴らしい。

『ある戦争』は戦場で一般人を殺したとして訴えられる兵士を法廷劇として描いていたが、ある意味本作もその延長線上にあると言える。トビアス・リンホルムのドライで適切な描写でスリリングな二人の関係性を見事に描き出している。

エディ・レッドメインはアカデミー賞をとった『博士と彼女のセオリー』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズなどでの草食系男子とは違った新境地をみせている。彼のキレイな目が逆に怖い。エイミーの家にいつの間にかいるシーン、彼女とランチするシーンの恐ろしさったらない。

カレンは動機を明かさない。しかし、「誰も止めなかった」と言う。彼が異常者なのは間違いない。でもシリアル・キラーにしてしまったのは彼の異常行動に気づきながらも隠蔽し続けた病院だ。彼のその言葉には「誰も止めてくれなかった」という一握りの哀しみが込められているように思えてならない。

実際に彼の犯行動機ははっきりしていない。「延命治療から救ってあげた」という発言もしているものの、順調に回復途中だった患者がほとんどであり動機としては成立しない。代理ミュンヒハウゼン症候群かな、とも思ったけど別に彼が称えられていたわけではない。

カレンという人物の理解不能さ、そしてエイミーに見せる純粋さをエディ・レッドメインは見事に表現していた。ジェシカ・チャステインは『女神の見えざる手』『タミー・フェイの瞳』など「強い女」というイメージがあるが、今作では自身も病と闘いながらも葛藤を抱える悩める看護師を好演している。

Netflixは今年賞狙いの作品(『ブロンド』『ホワイト・ノイズ』など)の評価が伸び悩んでいて、本作がかなり推されるかもしれない。主演女優賞は混戦のため難しいが、エディ・レッドメインの助演男優賞はかなり有力に思える。

静かで恐ろしいスリラー、サスペンスとして一級品。また医療現場の隠蔽体質という社会問題にも切り込んだ秀作。かなり好き。
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