MasaichiYaguchi

杜人(もりびと) 環境再生医 矢野智徳の挑戦のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
30年以上のキャリアを持つ造園家であり、環境再生医として時に「地球のお医者さん」とも呼ばれる矢野智徳さんを3年間密着して追ったドキュメンタリーを観ていると、今まで持っていた常識が崩れ去り、「目から鱗が落ちる」思いがする。
矢野さんは傷んだ植物や大地の治療の為に全国を飛び回っているが、造園業界や現代土木の世界、学術界でも見落とされてきた生態系全体に関わる大地の機能を重視し、業界では変わり者と呼ばれながらも、独特な環境改善のやり方を実践している。
タイトルの「杜」とは「この場所を 傷めず 穢さず 大事に使わせてください」と人が森の神に誓って紐を張った場を意味する。
そして矢野さんが、映画の中で発する言葉の一つに「結(ゆい)」がある。
「結」は、人と人、人と自然の共同作業があってはじめて、人間らしい充足感や幸福感をもたらされることを表している。
この「結」以外に、繰り返し矢野さんが主張することで「水と空気の抜ける道をつくる」というのがある。
具体的には、「地中に詰まった空気が抜けて、水の抜ける道が出来れば、空気の通りもよくなって周囲の環境が改善していく。」というのが、矢野さんの大地の再生の基本的考え方である。
だから、近年頻発している自然災害は異常気象ばかりが原因ではなく、現代土木の技術やコンクリートで固め、100%人工的に自然を抑え込むことにあるという。
自然に沿う形で、自然の機能を生かすように人が2〜3割の手を入れてやると、自然は自らの力で再生していくと説く。
人間だけが100%満足するような開発が行き詰まりを見せているなか、これからは、矢野さんが主張する「自然と呼吸を合わせた現代土木や林業の方法」が求められていくのではないかと思う。