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NOPE/ノープのfilmoutのネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

監視社会にまともにとりあうなんてやってられないね、とも思えるし猿(人間 -人種差別的-)とはちゃんと目を見ないと意思疎通できないよ、にも取れるが。
エンタメ、映画という体験においてはもはや最高、めちゃくちゃ楽しい。


ジョーダン・ピールはこれまでの作品の規模やスケールを凌駕していきなり彼なりの映画史を総括してしまった。
本作はフィクションとして描かれる物語と、制作過程の苦悩や醍醐味が並走しているかのように表現される。
絶対にIMAXで観た方がいい、というのはその体験自体がこの作品の一部であり、特殊効果のみならず映像表現の歴史に関係しているからだ。
もちろんそんな事知らなくても十分楽しめるんだけど。

冒頭のチンパンジーのシーンで『2001年宇宙の旅』を引用(後に『E.T.』へ置き換える!)、特に最初の牧場のシーンでどうも背景に違和感を覚えたので『2001年〜』の冒頭の背景に似ているなと思いながら観ていた。まさか劇中でその事(雲)に触れるとは思わなかった。
かと思えば序盤にスタジオのクロマキー撮影シーンが挿入されるし、否が応でもこの作品は超常現象と映画制作そのものを同列に語っていると直感せざるを得ない。
これが単に超常現象、ホラー、スリラーをテーマとして作られた作品ならチンパンジーのシーンはいらない。
ジョーダン・ピールはこれまでの作品でもメタ視点で語ってきた部分があるし、多少シャマランっぽさを感じさせるような構造の組み替えをしているが今回は構造自体に境界線がなく同時進行している。
映画が度々人々を驚かせてきた歴史をただの知性撒き散らしではなくまともにエンターテイメントとして、とにかく人を楽しませる体験として作り上げていた。

こじつけかもしれないが挙げればきりが無い。『オズの魔法使』にジョン・フォード的な馬とのアクション、キューブリックやヒッチコックやスピルバーグからまさかの『オースティン・パワーズ』にポール・トーマス・アンダーソン、ドキュメンタリー撮影おじさんとしてのヴェルナー・ヘルツォークから果てはシュルレアリスムまで。
いわゆるシネフィル的な映画史というよりも特殊効果や驚嘆の映像史の要約とでも言えるか。

そして夢中で観たが結局あいつは何だったのかという話。
自分が監督や制作をしていて度々思う事だが、この作品の登場人物たちのようにクルーは得体の知れないものを制作のプロセスでなんとか捕まえようとしている。同じように絶望的に恐ろしく、失敗したと思うことがほとんどという中で疲弊と期待が混ざりながら制作している。だから捕まえようとしているものや打破しようとしているものの得体は知れない、だけど誰も観たことのないものを作りたいというある意味「ありえない」ことをしようとしているその行動の物語のように捉えられる。
だからこそ1フレごとの活動写真から現在までの映像技術が総括してあり、IMAXで見る事に意味があった。

最近しんどいしんどいばっかり言ってるけどもっと作ることを楽しもうって思ったね。
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