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NOPE/ノープのsomaddesignのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
5.0
田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。ある日、長男OJが家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていた。長男は、父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かす。兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズるはずだと、飛行物体の撮影に挑むが…

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ジョーダン・ピールの映画愛・スピルバーグ愛炸裂!
「未知との遭遇」かと思って見てたら「○ョー○」だった


聖書の一節で始まる本作
「わたしはあなたに汚物をかけ あなたを辱め あなたを見せ物にする」
なんとも意味深で読み解きを必要とする作品なのが示唆されるが、普通にエンタメとしても想像の斜め上ゆく面白さ。

ジョーダン・ピールがコロナ禍で映画館が閉まっている間に企画・製作を進めたそうで、「配信じゃなく観客が映画館に足を運ぶようなスペクタクル作品を作りたかった」とのこと。クリエイターにとって一番の栄養源は暇かもしれない。

難解な読み解きは得意な人に任せて、自分には「見る/見られる」ことの暴力性、「見せ物にする/される」ことの支配や搾取の構造を通じて、映画史における人種差別や支配構造・格差についての映画に思えた。(クライマックスは被差別階級の逆襲とも)

チンパンジーのシットコムは「ミンストレルショー」に代表される、エンタメ内で誇張して描かれる有色人種のステレオタイプの象徴で、見せ物にされる屈辱やそれを見て笑い・恩恵を受ける人々との対比だと思う。そう思うとチンパンジー:ゴーディーの暴走って、長らく虐げられた存在の反乱にも思えて心が痛い。(同様の理由でジュープが襲われなかったのは、ゴーディーと同じ見せ物の被支配層だと思う。共感のグータッチしてるし)

転じて同じくアメリカ映画で長年描かれてきた「マジカル・ニグロ」問題にも言及して見える。無知で下等な扱いの存在が、不思議な能力や才能で主人公を助ける展開はステレオタイプの反転っちゅーか、有色人種を悪しく描くのと本質的には変わらない問題。今作だと人種の別に関わらず、彼ら自身が獲得した経験や知恵と勇気で立ち向かうのが熱い。

差別的なアメリカ映画の負の側面を、真っ向からアメリカ映画的西部劇&SFスペクタクルの世界観に昇華しちゃってるのがすごい。文底に潜ませるメッセージとは別に、スピルバーグオマージュのSF映画かと思ったらモンスターパニック映画になっちゃう斜め上の展開も最高。


何度も登場する「円」のモチーフは円環構造のことだろうし、互いに見つめる/見つめられる眼差しの暗喩のようでもある。ニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」の通り、見つめられ見せ物(食い物)になってるのは誰か?っていう問いかけをされてるような。

あと謎の「AKIRA」オマージュ。ギューギュー圧死とバイクスライド。特にバイクスライドのオマージュはアニメではよく見るけど、実写ではおそらく史上初では🤔 監督がAKIRA好きなのはよく分かったし、偽ダフトパンクみたいなTMZの記者も登場してすぐ「あ、すぐ死ぬタイプの嫌な奴だ」と思ったら、その通りになって痛快だった。


余談)
チンパンジーを登場人物にしたシットコムは実際に何本かあったらしく、調べただけでも61年にABCで「ごきげんチンパンくん」、70年「チンパン探偵ムッシュバラバラ」、74年「ゆかいなチンパン」などなど…
凶暴化したチンパンジーが起こした事故だと、日本だとパンくんが記憶に新しいものの、アメリカではCMやテレビ番組に出演してたチンパンジーのトラヴィスの事故が強烈。2009年に飼い主の友人チャルラ・ナッシュさんを襲い、彼女の鼻、両耳、両手を噛み切り顔面をズタズタに切り裂いたのち、駆けつけた警官によって射殺された。(うっかり「チンパンジー トラビス」で検索すると、ショッキングな画像が表示されるので【閲覧注意】。あまりの惨状に、最初に駆け付けた救護班員がカウンセリングを薦められるほどだったとか)


61本目
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