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僕らの世界が交わるまでのsomaddesignのレビュー・感想・評価

僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)
5.0
DV被害から逃れる人々のためのシェルターを運営する母・エヴリンと、ライブ配信で自作の曲を披露することに夢中な息子・高校生ジギー。社会奉仕に身を捧げる母親と、自分のフォロワーのことしか頭にないZ世代の息子は、いまやお互いのことが分かり合えない。しかし彼らの日常にちょっとした変化が訪れる。それは、各々ないものねだりの相手に惹かれ、空回りの迷走を続ける"親子そっくり"の姿だった……!

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2020年に発表されたジェシー・アイゼンバーグ脚本による同名オーディオブックを元にした映画化(5時間を超える群像劇らしく、到底聞ききれる英語力がないので未チェック)。俳優ジェシー・アイゼンバーグの初監督作品にして、エマ・ストーンがデイブ・マッカリーと設立した製作会社Fruit Treeの初製作作品。「ゾンビランド」シリーズの絆、結束固いな。癖つよ作品ばかり手掛けてるのに、アカデミー賞の常連になったA24配給なあたり期待値高い。


世代や文化背景を下地とした一番身近な分断の物語だけど、どちらかい方を上から目線で描かず、分かり合えない二人を温かな目線で見守るタッチが優しい。

特徴的な音楽・BGMの使い分け。親子別々ですれ違いのようで通じる部分も当然ある。フォークロックとクラシックの対比だけど、どちらも大音量で自分の城に籠る姿は共通したルーティン。さすが親子。
自らの認められたい人に認められない空虚さを、代わりの誰かで埋めようとする。手前勝手な「良かれ」の押し付けもまた似たモノ親子で、見ていてイタいやら、自分にも思い当たることがありそうで悶絶しちゃう。(特に良かれの押し付け)


エヴリンの無自覚な階級意識や加害性。
冒頭、誕生日パーティを一瞬で静かにさせたり、何気なく職員に話しかけたで相手が「私クビですか?」と怯え出す。
夕食を届けにいったり、嘘ついて連れ回して食事に誘うシーンとかもうホラー。性別を逆にして想像するとヤバさが分かりやすい。

一方、息子ジギーの軽薄っぷりがおもろい。単なる社会課題に無関心な若者って描き方じゃなくて、自身のやりたいことには邁進して視野が狭いだけってバランスの描かれ方。高校生ながらにたくさんのフォロワーがいる配信者で、オリジナルグッズを制作、微々たる額だけど収入もあるってマジスゴイ。企画力も行動力も素晴らしいけど、他人の立場に立って考えられない思慮の足りなさがガキらしい。自分が10代の頃を思い出して悶絶しちゃう。

手軽に解決策を見つけようとしちゃうのは、世代関係なくネットが普及した現在の悪習に見えて自戒しちゃった。

エブリンを演じたジュリアン・ムーア、さすがの名優っぷり。
エブリンは慈善家だし自分の仕事に静かな情熱を燃やし、やりがいも見出してる一方で、社会も家庭も理想とは程遠い現実にいっぱいいっぱいになっちゃってる。柔らかな物腰の奥に危うい精神バランスが滲み出る感じ。
余裕のなさ・危うさに敏感なのは周囲の人で、特に彼女より立場の弱い人達が萎縮してビビってる姿が痛々しい。エブリン自身は良かれと思っての言動でも、行き過ぎれば押し付けか至上命令。自身が持ってる権限の大きさが、利用者や部下にとってどういうチカラなのか無自覚でもある…◯◯ハラ映画としても、なんだか学びが多かった。


余談)
早くも公開が待たれるジェシー・アイゼンバーグの次回作「A Real Pain」。監督・脚本に加えて主演も務めるというから期待高まる。再びFruit Tree による製作で、サーチライトが1000万ドルで世界配給権を獲得したという。監督デビュー早々に確かな手腕が評価・期待されている。

8本目
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