デニロ

破戒のデニロのレビュー・感想・評価

破戒(2022年製作の映画)
3.0
「新生」を読みたくて20年ほど前に島崎藤村を文庫で読み始めた。折角だから時代を辿ろうと思ったのが運の尽き。全然面白くない。その最初の作品が「破戒」。これは教科書にも載っているし、映画作品でも観ていたのでというよりも、学生時代の環境から関係性は高い。

冒頭、被差別部落出身者が宿に泊まったということで追い出される。宿が穢れた、ということでその宿に下宿している瀬川丑松の部屋にも宿の女将がやってきて、畳替えをしたいという。うちも客商売ですからね、とその客を追い出した後に塩を撒く。追い出される老人を目の当たりにした丑松は自身の出自を知られるのを恐れ町外れのお寺に転居する。

被差別部落民に対する謂れのない差別の実相を描きつつ、お寺の娘との恋の行方、被差別部落出身者であることを公にして社会活動をする男との交流、お寺の娘に懸想する同僚教員文平との確執を交えて物語を進めていく。

小説のストーリーはよく知られているところで、描かなくてはならぬことは明白であり本作においてもそこに迷いはない。明治の世の中、四民平等の世になったにも関わらず、相変わらず穢多という旧制度の賤民の住む土地を排他的に取り扱っていた。その出自を隠さなければ日本という国では社会での活動が制限される。出自を隠さねばならないという行為と、それが暴露されたとしたらという恐怖。そんな無用の葛藤を起こさせてしまう社会というのか、どこかで人の上を歩きたいという人間のこころねなのか、そんな有様を浮き上がらせる。

ラスト。丑松が何もかも打ち明けて東京へ旅立つ。そこに、丑松の勤務する小学校の教員土屋銀之助という師範学校からの親友が寺の娘を連れてくる。黙って一人行くのか、水臭い。彼女と一緒に行けばいい。そこに生徒たちも、見送りたい、と現れる。が、件の同僚文平が現れて生徒たちを叱咤する。ビビる生徒たちに銀之助は言う。俺が責任を取る。かっこいいのだが、実は銀之助、農科大学の助手という次の就職先が決まっているのです。

結局、藤村の小説をいろいろ読まされた揚げ句、「新生」は当時新本では入手不可でしばらく読めなかった。「夜明け前」を読み終えた頃ようやく改訂新版が出たのでした。
デニロ

デニロ