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デュアルのtokyoflaneurのレビュー・感想・評価

デュアル(2022年製作の映画)
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恐ろしく静かに始まり、同じように静かに終わるSF作品。2024年1月現在今年最高の一本。

ある日、自分が病で余命わずかだと知ったサラ(カレン・ギラン)。同居するボーイフレンドのピーター(ビューラ・コアレ)は長期出張中。母(マイヤ・ポーニオ)とはあまり良い関係ではない。しかし、二人を心配し、自分のクローンを作るプログラム「リプレイスメント」を使うことにする。残された時間をクローンへの引き継ぎに費やすが、ピーターとも母とも自分より親しくなっていくクローンに複雑な気持ちを持つ。そんなある日、彼女の病気が完治したことが判明する。クローンとの共存は禁止されているため、サラは自らのクローンと生き残りの対決をすることになる。

クローンを恐れるようなコンセプトの映画は珍しくないが、自分の死後のために、自ら望んでクローンを作る、という斬新なアイディアがまず素晴らしい。そして作られたクローンにもちゃんと人権を与えている先進的な部分と、共存を許さない上に殺し合いで残す方を決めるという古臭さ。この対比も面白い。

SFではあるものの、「アルファヴィル」のように、視覚的な「未来感」は一切なく、映画としての派手さはない。すぐそこにある未来という感じで、現実味がある。
ただアメリカ映画なのにフィンランドで撮影したせいか、アメリカ英語、イギリス英語、ヨーロッパ訛りの英語が入り混じり、街の雰囲気や景色に微妙な違和感があり、そこに微かなSF感が漂う。

サラはあまり感情を表に出さない女性で、周りにあまり理解されていない。クローンと対決することが決まり、自分の人生を取り返すと決めたことで、徐々に感情が出始める。だからこそ、最後のシーンに重みが出てくる。

ストーリーは淡々と静かに進んでいくのだが、画面から目を離せない緊迫感。素晴らしい作品。
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