がんさ

MEN 同じ顔の男たちのがんさのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.5
※これから観られる方へ
くれぐれも本作は、まずはお一人で受け止められることを強くおすすめする。

嫌な思い出は、誰だって自分にとっての真実にしようと必死になるものだから。

本作をカップルで観られた皆さまへ
…合掌。つらいよね…ティザー予告が過ぎるよね…一旦この後の会話に混ざらしてほしいのだけどどうかな?お茶代持つからさw







〜〜〜以下ネタバレを含めて、書かせていただきます〜〜〜

「ある愛、いや人間の側面について?」
この映画はタチが悪い。

美しい、幻想的な映像が転じて、極めて生々しい心象風景の投影に変質していくのだから。

恐怖の対象が呆気なく、恐怖を前貸してくれるのに、解放された先で同席を強いられる彼女の原体験とも言える「それ」は、割り切れない、居心地の悪い、強烈な感覚を、心の隅に植え付けてくるのだから…

〜〜〜

「全編に織り込まれるモチーフについて」

日常に潜む違和感は、不安の種となる。宗教に無知なのかもしれないが、私にとってその一つは教会に置かれている人面レリーフの裏側。

初めは何なのか判別できなくて、二度目に映った時は自分の目を疑った。こんな教会にそぐわないものがあるものだろうか…それが神父の質問をトリガーにして、これまで私が観てきたものを、別の意味へと置き換えていってしまう。

夕暮れは鮮血か、たんぽぽの綿毛はきっとそのまま種だったのだろう、最悪だ、ではじめじめとしたトンネルは…ハーパーは続く神父の配慮のない(もしかすると図星を突かれた?)質問に嫌な顔をするが、画面越しの私はもっと嫌な顔をしていたはずだ…

トンネルでハーパーがコダマを使って歌うシーン、反響する声が水溜まりの波紋の映像と呼応し、また焦点が外された映像からは湿度を感じるようだった。五感が混ざり合い映画に没入するような不思議な体験が心地よかったのに、それも後で罪悪感に変わった。

雌鹿の死骸の眼窩に綿毛が一つ吸い込まれていくところなんて、もう気持ち悪くて仕方がなかった。それでも、どうしようもなく映像が美しくて画面に魅入ってしまう…この映画は本当にタチが悪い。

〜〜〜

「男女について」

全裸の男がこんなに長時間画面を占める映画は初めてだったが、この男の表情も引っかかった。

パブで警官が言っていたが、男には害が無い。ストーカーだとハーパーは訴えるが、あなたが二度彼を見たとしても彼が見ていなければ罪にはならない、という台詞はとても示唆に富む。後半、むしろ裸の男はどことなく彼女を見守っているようにも思えてくる…不思議。

本作では頻繁に画面が切り替わる。こちらとあちらで異なる景色。そしてきっかけとなる諍いの顛末は最後まで語られない。ハーパーは暴力の被害者か、愛を与えたことがなくて驚いたのか、はたまた与えることに疲れてしまったのか…

ただ私がもし陪審員なら、
同じ顔の男たちを何とも思っていないことや、バルコニーから侵入しようとして足を滑らせたのかもという言動から、ハーパーがもう一つの事実の中で生きてしまっているように感じる。それに彼女は自分の中の凶暴性にも無自覚だ。

ただこう思う私の気持ちは、
自身の性別に影響されてしまっていて、本能的な保身に走りたくなっているのかも知れない…もう収拾がつかない…

ほら、この映画は本当にタチが悪いでしょうw

〜〜〜

スコア内訳です。

ルック1
シナリオ1
役者1(もっとあげたい!)
深度0.5(嫌な思いした分、不当に下げた)

としました。
がんさ

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