るるびっち

MEN 同じ顔の男たちのるるびっちのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.9
人は見たいものを見る。
本作においても、対立する二つの見方があるようだ。
一つは支配的な男性の無自覚な威圧に対して、女性側の嫌悪を表した作品という見方。
もう一つは、全ては女性の罪悪感から生じていて、男に罪は無いという前段をひっくり返した見方。
どちらの立場で物事を見たいかで、真逆の意見が噴出する。
意地悪な言い方をすれば、フェミニズム的思考の人は男性批判と見る。
逆にミソジニーは、男性拒否の女性に嫌悪感を抱く。

話自体も一つの寓話と見るか、主人公の女性の妄想に過ぎないと見るかで、意見が変わるだろう。
「寓話」と見れば、あり得ない寓話の形で社会における男性側の支配の無自覚性の批判。
「主人公の妄想」と見れば、男性が現実に悪いことをしたのではなく、全て彼女の罪悪感の裏返しだから、そんな妄想する女が悪いと結論づけられる。

初めに「離婚したら自殺する」という未練たらしさで、妻を縛る嫌な夫が罪悪感を植え付ける。
癒しのために向かった田舎では男性しか出てこず、どいつもこいつも無頓着で無神経な連中で、同じ顔をしている。
男は皆、同じというわけだ。

そしてこの無自覚と無神経は、男から男へずっと受け継がれていく。
それが親父マトリョーシカで実体化される。
親父が親父を産み続けるのが、その親父たちは同じ無自覚さをずっと引き継いでいくのだ。
この映画を見る男たちも、「なんだか男が悪いって言ってるけど、結局これ女の妄想でしょ? 自分を正当化してるだけじゃない」
こうして観客の中にも、親父マトリョーシカは爆誕して増殖するのだ。
結局、人間は自分の見たいものしか見ない。
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