どらどら

LOVE LIFEのどらどらのレビュー・感想・評価

LOVE LIFE(2022年製作の映画)
5.0
「痛かった。全部。」

我々は誰しも「最低」である
死を前にあるものは次の子のことを考え
また別のものは思い出が「汚される」のを恐れ
はたまたまた別のものは他人の不幸を願い
そしてあるものは妻を捨てあげくには騙し
彼女もまた、夫を捨てる

それぞれの都合で
それぞれの世界を生きる私たちのその生は
あるとき重なり合い、またあるときには不協和音を奏でる
家族も恋人も他人でしかなく
他人であるが故に不気味であり
そして、だからこそ、尊いのである
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他者の他者性とそこにある痛みについて。
そして絶対に交わらない視線をもう一度合わせるための映画。
 
偏執的なまでに「家族」の虚構性を描き続けてきた深田晃司の最新作は、はじめから虚構である家族- 戸籍上父子ではない- を通してその虚構に宿る、他人であるが故の不協和音の肯定へと辿り着いた

幸せに暮らす家族と闖入者、というモチーフはそのまま、ある種つなぎ目となっていた子の死というものを加えることによって深まったエグみは、確実に観客を刺す
しかし、最後まで徹底して噛み合わないにも関わらず、そこに残るなにか「救い」のようなもの
それが「愛」であると、矢野顕子の”Love Life”を聴きながら気づかされる
この残酷で不条理な世界を肯定して、その不条理さとともに私たちは- 妙子のように- 生きていくしかないのだ。そんなある種の諦観にも似た希望とともに、劇場をあとにした。

日本と韓国、聾者(それも外国人聾者)、血縁主義的な文化規範、ホームレス支援の現場などなど現代日本社会の暗い部分を確実に見据えながら紡がれたこの真摯な映画は、深田晃司という監督のある種の到達点であり、映画という表現の希望だとまで感じた。

木村文乃のキャリアに燦然と輝く最強のアクトであり(葬儀のときの壁に倒れかかるところなど神がかり的である)
永山絢斗の演劇的な不気味さと温かさが際立つ作品であり
何より砂川アトム演じるパクという男が最高である
「聾者」で「日本語が不自由」で「ホームレス」であり妙子は「私が守ってあげなきゃダメなの」とまで言うが、パクは最も強かに生きている。これも深田晃司の表現したかったことの一つだろうと思う。

雨の中踊る妙子は、間違いなく今年の邦画でベストシーンだったのではないかと思う。
妙子、「本気のしるし」で解放された女性の主体性という観点でもきわめて重要な人間造形である。
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