悠

かがみの孤城の悠のレビュー・感想・評価

かがみの孤城(2022年製作の映画)
3.8
今年の映画館納め。辻村深月さんの大好きな小説のアニメ映画化ということで、予告編を見ただけでもうるっときてしまうほど、2022年公開映画の中でもかなり楽しみにしていた作品でした。
老若男女関係なく、日々生きづらさを感じる人達全員が勇気をもらえるような、背中をそっと優しく押してもらえるような作品です。原作はこころたちの中学生らしい繊細で等身大の心理描写がとても魅力的な小説で、彼女・彼らの微妙な感情の揺れであったり葛藤をどこまで映像で表現できているのかに注目しながら鑑賞しました。
小説の映像化作品を観る時というのは大抵自分がイメージしていたものとのギャップが生まれがちです。もちろん良い意味で原作とのイメージが違う映像化作品というのもありますが、当然悪い意味でイメージと違うと感じた作品も今まで数多くありました。本作は特に思い入れが強い作品なのでその点をかなり懸念していましたが、背景美術、キャラ絵、声優等、原作のイメージ通りのものを観ることができて、映像の面で言えばかなり満足のいく出来栄えでした。
ただ残念なところもやっぱりあって、一言で言うならば原作小説に比べて全体的に「薄い」と感じました。これは先述したようにこの作品の最大の魅力が登場人物の繊細な心理描写にあるところにも起因しますが、映画という媒体である以上、キャラクターの心理描写は表情や仕草での表現にどうしても限られるため、小説に比べてとても難しくなります。喜怒哀楽の表情の作画自体はとても素晴らしかったですが、モノローグを増やしたり、互いの言動に対して各々のキャラクターにもう少し表情の変化をつけるなりして、こころたちの内面にフォーカスしたシーンがもう少しほしいところでした。また、それなりにボリュームのある原作小説をたった2時間にまとめるとなると、原作からカット・省略されているシーンも多く、ダイジェスト感が否めなかったのも事実です。他の系統の作品ならば本筋とあまり関係のないところが端折られてもそこまでは気にならないのですが、孤城の皆と過ごした時間の長さや交流の深さが感動に直結する作品のため、それらの描写不足は本作の魅力を半減させてしまっているように思います。原作ではそこかしこに伏線があり物語の真相への想像を膨らませるのも醍醐味でしたが、それらも大半がカットされていて残念でした。某有名作家が自身の著書で「小説が映画に勝っているところは、ストーリーの時間的な制約がないところ」だという旨のことを言っていましたが、まさにその時間的な制約があだになってしまったような作品だと思います。脚本が極端に悪いというわけではなくて、むしろこことここをよく上手く繋げたなと感心するところもありましたが、やはりそもそもこの作品を2時間の映画一作にまとめようとすること自体が難しかったのだと思います。
以上のことから、原作小説を100点とするならば、映画は60点ぐらいというのが正直なところです。しかしそれでも原作があまりにも良すぎるだけで、映画単体で観れば普通に良い映画だと思います。自分が観て・読んで本当に良かったなと思えるファンタジー作品は、現実に生きる自分達の人生の癒しや活力になる作品ですが、本作は間違いなくそういう力のある作品だと思います。
悠