悠

関心領域の悠のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
2.1
アウシュビッツ収容所の隣で暮らす所長とその家族の日常を描いた作品。
ホロコーストの直接的な描写は一切ありませんし、かといって家庭内で何かドラマがあるわけでもなく、ただ淡々と家族の日常が描かれていて、それ以上でも以下でもない退屈な内容です。では本作が真に何を描いているのかといえば、壁を一枚隔てた隣から聞こえる尋常ならざる叫び声を気にもとめず、まるで野鳥の囀りかのように無関心に日常生活を送る家族の姿。本作の「どんなホラー映画よりも恐ろしい」という安っぽいキャッチコピーの正体は、人間の慣れや無関心そのもののことを指していますし、本作が言わんとするのはそのことへの啓発と風刺です。はい、こんな誰もが知っているし自覚している人間の特性を描くだけなら風刺画一枚で済むし、105分も必要ないよねというのが率直な感想です。
今も私たち日本人は他国が戦争をしている中でも平和に映画を観たりして日常生活を送っているわけですが、その現状にどれだけ心を痛めようと、私たち個人にできることは何もありません。今この時は平和でも、地球に住んでいる限り犯罪・天災・戦争など、誰もが明日は我が身です。目の前の飢えた野良猫一匹に餌をあげ養うことはできても、人一人ではどうすることもできないことの方が世の中多いわけで、それを見て見ぬふりをしながら日常生活を送ることのドライさがホラー映画よりも恐ろしいのならばこの世は地獄ですし、そんなことは大人になれば皆分かった上で日常生活を送っています。ではそのどうしようもない世の中をどうにかしようと一歩踏み込んだり、どうしようもないことをわかった上でそれでももがくような人が出てくる作品に私たちは心を動かされますが、本作が伝えるのはどうしようもない私たちのリアルだけ。空は青いし、殴られると痛いし、人は見たいものだけを見るし、うんちはマジで臭い。深く掘り下げるわけでもなく、そんな皆知っているものを今更まわりくどく提示だけされたところでただの偽善にしか思えませんでした。
悠