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シャイロックの子供たちの南森まちのレビュー・感想・評価

シャイロックの子供たち(2023年製作の映画)
4.1
ノルマ地獄に追われるメガバンク長原支店。そんなストレスで崩壊寸前の中で職場で発生した現金紛失事件。そこから不可解な融資の存在が明らかになって…というお話。

池井戸潤作品の中でも何度も映像化をしている初期の傑作で、銀行内部の不祥事や駆け引きが存分に出てきます。

中でも今作品は、原作と大きく異なる大胆なアレンジが見もの。私は原作既読者ですが、これは映像化の最適解の一つと私は感じました。

そもそも日本の小説は長く、映画にしづらい。その中でも池井戸潤さんの銀行モノは「群像劇」「役割の似ている重要人物が多い」「金融関係の専門的な言葉が多い」と映画製作上、難しい点が多く苦しい。それを、見せる順番や内容そのものを大きく変えることで、122分に収めた監督・脚本関係の皆様には賛辞を送りたい。もちろんそれを許容した池井戸潤氏にも。

そのアレンジは、既読者にとっては「え!?そのシーンこんな序盤で見せていいの!?」のオンパレード。さらには原作にいなかった重要人物まで加わって、原作と大きく異なる着地点にたどりつく。非常に楽しめました。

もちろん原作からカットされてしまったシーンや人物、変更されてしまった役割もあり、テーマさえ少し変容してしまった。登場人物による無理のある行動もいくつかあると思いました。

しかし、女性の多い先行上映会の中で、多くの笑い声がおきて、みんな「最後のクライマックス、面白かったね!」とワイワイ言いながら出ていく姿を見ると、これはこれで映画としてアリだったんだろう。この「面白い」クライマックスは原作にはないものだった。

そしておそらく、この順序で見せるからこそ、未読者にとって「とてもわかりやすい」2時間映画になっていると思う。

またキャスティングも良い。美少女・美男子ばかりを集めて誰が誰だったか分からなくなるような映画ではなく、演技の良し悪しも含めて、全員の役割が見事にハマっていたと思う。

最後に。私は原作のプロットやテーマが大好きだ。
原作は映画版より展開が暗く重く、そのためにリアリティがある。だからこそ、映画を見て気に入った方は(見られない方も)ぜひ原作を手にとっていただければと願うばかりです。

おすすめです!