一緒に見ていた嫁が「阿部さんはうまいね。ホントにいる人みたい」とつぶやく。
僕は「えっ?」と思いながらも「そうだよねぇ」と相槌する。
確かに阿部サダヲの演技は上手い。しかし「ホントにいる人」みたいな、リアルさを追求した結果の上手さではないと思う。
阿部サダヲの上手さはカメレオン系・憑依系俳優のリアルさにあるのではなく、キャラクターを誇張し、感情表現をパターン化し、わざとらしさの手前で引き返す、その間合いの絶妙さにあるのだと思う。
阿部サダヲの舞台を見たことないので何とも言えないが、やはり舞台の人なんだろうな、とは思う。
それにしてもこの映画のドタバタ感は舞台喜劇のドタバタ感に通じるものがある。原作者が「経済小説の旗手」と銘打たれている割には金融業界の描き方に現実感が乏しい。こんな銀行がいくつもあったら業界に対する信用は無くなってしまうのではないだろうか。
『ヴェニスの商人』が作られた時代も一般庶民はお金を扱う人達に対して羨ましさと反感の感情がない混ぜになっていたのではないか。
シェークスピアはそんな庶民の感情を掬い上げ、最後に金貸しを痛い目に遭わせることでカタルシスを与えていたのだろう。
「シャイロックの子ども達」である現代の金融マンがこの映画のような人間では無いことを望む。
付記
契約場面には少々違和感を持った。司法書士が差配する?公証人役場で契約しないの?弁護士の立ち会いは無いの?金融業界の実務を知らないので分からないけど。