Oto

神は見返りを求めるのOtoのレビュー・感想・評価

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
3.6
吉田監督は相変わらず「性悪説」的というか、人のいやーなところを描くな〜と感心したし、タイムリーだけどまだ描かれてないテーマ設定も面白かった。見てて心地いい作品ではないし大きなカタルシスもないので、どこか物足りなさもあって、もう少しYouTuberの良い側面を描いてもよかったのでは…と思うけど、新しい作品。

すごいのはYouTuber描写の鋭さ。知名度も肩書きもないのにみんながやってるような企画しかやらない底辺YouTuberが、コラボとエロ路線でブレイクするというのそれしかないなと思うキャリアだし、デザイナーが加わったことで無駄にテンポやエフェクトが凝った感じになるメタな表現とかリアルすぎて笑った。売れてからの飲み会には佐伯ポインティみたいな人いたし、ゴッティーは明らかにガーシーだし、売れてる人たちのいけ好かなさも絶妙。

本当に全員が悪人で、売れてからのゆりちゃんはわかりやすく調子乗っててマジで応援できないし(岸井ゆきのの二面性のある芝居がさすが)、柳くん演じるデザイナーの「それ面白いの?」「そこ入っちゃうからどいて」みたいな世の中を見下してる感じもすごくリアルだし、重症の患者が入院する近くでカメラ回しちゃう二人組のデリカシーのなさとかそりゃいつか事故になるよねと思うし、病室や自宅に突撃して炎上バズ狙おうとしてる無名のやつもまぁいるよねと思うし、「YouTube地獄の詰め合わせ」という映画だった。若葉くんが嫌なやつ演じているのも新鮮で、田母神さんの言うように悪口伝染させるやつが一番最悪というのあるよね。

そんな地獄のフィクションの中にも身に覚えがある節はいろいろあって、社内で笑われていたゆりちゃんが売れて退社するときの同期への「ざまぁみろ」の視線って、多くの人が持っている負の感情(売れてやるから見てろよ)を蓄積させた結果だと思うし、もし自分が田母神のような立場だった場合にも「自分の存在を無かったことにするなよ」って気持ちは少なからず抱えると思う(莫大な借金みたいな問題が重なったら尚更)。「一億総クリエイター社会」において全員が利害関係に置かれる悲しさというか、状況によって人は大きく変わるという悲しさというか。

自分も割と田母神さんに近い立場ではあって、いくつかのYouTubeに協力してきたけど、向こうが売れてから疎遠になった場合もいるし、身を削ってやったけど自分のプラスにならなかったこともあるし、相手に対して売れるためにそこまでやらなくてもって思ったこともある。そういうコミュニティの集まりでゆりのような疎外感を感じたこともある。ただそれでも撮っているときはただ楽しかったなとかも思い出してた。投稿しているときには少なからず一山あてるぞ!みたいな気持ちはあって、どうやったら話題になるかとかすごい真剣に考えて、編集とかも細かく工夫してたからひと事に思えないところはたくさんあった。自分もいい人であろうとしすぎるのはやめようと思ったし、頼りすぎるのもやらないようにしようと思った。

劇中の二人も、再生が伸びなくてもただ楽しく動画が作れたあの頃はよかった...という感情を両者が抱えるのは若干の救いかもしれないけど、「嫌い」を繰り返し伝える気持ちとか理解しがたかったし、ただ狂気を見せるために作られたようなシーン(血流のダンス、刺されてからの街中)が美しい余韻のように提示されてるのもあんまり好みでは無かった。
非常に難しい芝居であの二人だからできたとは思うし、『犬猿』の関係性とも似ているけど、あちらの方がもう少し露骨じゃない奥ゆかしさがあったように思える。「好きなもので認められてみたら?」みたいなセリフこそあったものの、割とずっとYouTuberを批判的に描いているし、序盤の長々とパスタ動画見せるあたりからもうきつい。

ただ一方で、映画感想への「ポエム」という批判とか、宇多丸さんのいうように「映画世代」の田母神さんの視点での自己批判的な作品とも捉えられる。ただ自分は、映画は古いって言われてもやっぱり残るものには価値があるしそういうものが見たいし作りたいよって思った。ハンディの撮影が多かったけれど、シネマティックと言えないその独自の温もりにこそ、無駄におしゃれな量産型YouTubeにはない価値があるように改めて感じた。
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