人生ベスト。1974年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。カンヌ映画祭コンペ部門に選出された数少ないブルガリア映画の一つ。選出にあたって、当時のPDがブルガリアまで試写を観に来たらしい。前作『The Tied Up Balloon』の上映禁止処分とそれに伴う国立映画センターからの解雇によって映画を撮れなくなってしまったジェリャズコヴァだったが、トドル・ジフコフの方針はプラハの春以降も変わらず、知識層と接触を続けることが保身への最良の戦略と認識していたために、もう一度だけ監督のチャンスが回ってきた。それでキャリア上で最も過激な映画を作っちゃうのはやっぱり強すぎる。ブルガリアで6月2日はナチスとの戦いで亡くなったパルチザンを追悼する日らしい。映画の冒頭では、亡くなったパルチザンの名前を読み上げるラジオの音声と共に明るいロック音楽が流れ出し、浜辺を歩く喪服姿の老人集団、浜辺で巨大なタコを上げる若者集団が続いて登場する。映画を象徴するような場面だ。後にこのラジオで読み上げられる名前は点呼となって、追悼のサイレンは空襲警報となって時を超える。こんな悲しい時の超え方があるかよ。物語のほとんどは二次大戦中のスリヴェン女子刑務所で起こる。6人の女囚がベッドすらない無機質な部屋に押し込められ、そのうちの一人が出産間近なのか大きなお腹を押さえて苦しんでいる。この妊婦は"教師"と呼ばれており、彼女が指導した高校生が20人ほど逮捕されているらしい。反政府活動を扇動したわけではなく、詩歌や歴史を教えて自分で考えることを促しただけであり、明白な罪状があってここにいるわけではないのだが、当局は彼女を貶めることで広がった思想を打ち消したいようで、彼女に取り下げさせるためのあれやこれやが映画の主軸となっている。6人のうちの1人であるドラは時々呼び出されては首に縄をかけられて吊るされる寸前まで処刑を再現されるという虐待を受け、看守たちは彼女を起点に6人に亀裂を作って密告させ合おう、秘密を引き出そうとするが、誰も折れることはない。それどころか唯一残された武器、身体を最大限に使って最後まで全力の抵抗を続けていく。