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若き詩人の心の傷跡のギルドのレビュー・感想・評価

若き詩人の心の傷跡(2016年製作の映画)
3.9
【ある詩人が目にした「死の侵食」】
■あらすじ
1937年の夏。20代前半の青年エマヌエルは脊椎カリエスと診断され、黒海沿岸の療養所に収容される。脊椎を石膏のギプスで覆われ,車輪付きのベッドに横たわり闘病生活を送る彼の体は徐々に衰えていくが、心は折れることなく精一杯治療に専念していた。
彼は療養所の多くの患者仲間たちと友人となるが、ある者は退院し、ある者は死亡して療養所を去っていく。彼はかつて同じ病気だったが現在はスタッフとして働く美しい女性ソランジュと恋をしたが、彼女もまた去っていく。やがてエマヌエルの病状が悪化し、彼は手術のためにブカレストに列車で向かうことになる…。

■みどころ
ルーマニアのユダヤ人作家の闘病生活を描いたお話。
この映画はルーマニアのユダヤ人作家マックス・ブレヒャーの自伝的小説をベースに、闘病生活をおくる青年の日々をブレヒャーの文章を引用しながら描くのが特徴的な作品である。

入院してから体験した様々な事象を汲んだ詩が随所に挿話されることで、幻想的な詩に奥行きを与える作りにしているのが面白いと思いました。
闘病生活の中でも上手く行ったり悪化していく姿が詩に如実に表していて。「詩」に段々と「死」の属性が侵食していく姿を捉える姿にこそ大きな魅力でした。

ジュデ過去作品と同様にレイシズム・軍国主義的な思想の矛盾性、ルーマニア映画特有の饒舌さはこの映画でも存在する。
けれども、この映画ならではの特徴として「箱庭に閉ざされた人の思考」を捉えている所だと思う。

エマヌエルは入院してから初めは看護師・医者に冗談言って自分が考えた詩を披露したり、入院仲間と談笑したり、恋愛に発展する。
そうした青春を箱庭の中で過ごしているうちに「自分の人生は明るい方向に行くだろう」と希望を持っていき、それが「詩」に反映される。その「詩」は混じりけのない「生」の詩で「死」が介在する余地を与えない。
…が、容態が悪化したり入院仲間の突然の死が自分自身の病室の照度と共に暗くなり、自分の人生に「死」が侵食し始める。
その魂の叫びとして「死」に侵食された「詩」が展開されていき、自分自身の生活が徐々に制限され地に堕ちていく。ここに「箱庭である事の嬉しさが絶望に変わる」という「井の中の蛙大海を知らず」が生まれる「死生観」を鋭く描いているのが面白かったです。

「死生観」の作品ではあるけど、「死」の存在は初めから付きまとっていて「死」が徐々に支配的になる姿を鬱屈に描く。
その過程を「詩」で表す映画だが、映画構成によって「詩」に奥行きを与える意味で感情を言語に落とし込むプロセスについて考えさせる、そんな映画でした。
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