浜一

夢の浜一のレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
3.8
★黒澤明監督が見たという8つの夢を映画化した作品。日本の映画会社では制作費を調達できなかった為、スピルバーグの仲介でワーナーが製作している。そんな事情があるからか、日本で販売されているDVDソフトはタイトルとエンドクレジットが英語表記となっている。
★日照り雨
晴れているのに雨が降る。そんな日には狐の嫁入りがあるという。幼き「私」が見た狐の嫁入り。森の中に射し込む幻想的な木漏れ日。リアル過ぎない和テイストの狐のデザインが美しい。
★桃畑
桃の木の精に誘われて見るお雛様の舞いと花吹雪は圧巻!テレビの画面で観ても美しいのだが、やはりこれは大きなスクリーンで観てこそ映える。けれど海外出資で製作された関係で日本での上映権利が切れているんじゃなかったかな。残念。
★雪あらし
膝上まである雪をかき分け彷徨い歩く男たちの荒い息づかいだけが数分続く。凡人な自分などは、雪山で遭難と言えば大声上げて「寝るな」叫ぶのだろうけど、体力使い切って喋れないんだ。そこに現れる美しくも恐ろしいあれが眠りに誘う。原田美枝子の振り乱す髪に注目。
★トンネル
このエピソード辺りから黒澤さん、恐らく疲れ始める。「雪あらし」までは台詞抑え目でひたすら映像美で魅せるが、「トンネル」からは演説が増える。冒頭の犬が怖い!そして・・・。黒澤さん、あなた戦争行ってないじゃん。ま、夢ですからね。見たんだね。こういう夢。
★鴉
「映画か良くわからない」「わからないから捕まえたい」という旨の事をアカデミー賞授賞式でも言っていた黒澤さん。ゴッホの作品に対する情熱に惹かれ、絵画世界に嵌まり込みゴッホを訪ねる。「なぜ書かん。急がねば絵を描く時間は限られる」夢のゴッホは言う。黒澤さんはゴッホを追って絵画世界を彷徨うが鴉に・・・。作家の作品への情熱、産み出せる有限な時間への焦り。80才を過ぎて挑戦的な表現をした意欲作。
★赤富士
逃げ惑っていた人々が一瞬にして消えたり、場所が崖っぷちだったり。大胆な省略表現。夢って確かにそんなところがある。見ている時は何とも思わないんだよね。起きてからおかしい事に気づいたり。
★鬼哭
いかりや長さんの鬼って。コントかよ!
長台詞も締まりが無いし、谷間でもがき苦しむ鬼どもも恐ろしくない。どこか「天国と地獄」に出てきた伊勢崎町の阿片窟シーンを思い出した。けれど、あちらの異様な恐ろしさがこちらには無い。デカいタンポポだけが目立つなぁ。
★水車のある村
笠智衆の演説エピソード。ここで笠智衆が語る内容は、実は黒澤明の自伝「蝦蟇の油~自伝のような物」の中で、黒澤家のルーツである秋田県の村で聞いた話がそのまま使われている。最後の葬列シーンが綺麗だなぁ。
★「映画になったところ」と「ならなかったところ」が1本の映画であるのだろうけど、オムニバス形式になった事でエピソードごとに出来のムラができた作品なのだと思う。しかし80才を越えた老監督が新しい表現に挑戦した意欲作だよ。
浜一

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