りょう

線は、僕を描くのりょうのレビュー・感想・評価

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
3.6
 水墨画がテーマの映画なんて、物語的にも映像的にも興味ありませんでしたが、そのどちらも想像していた以上のものでした。タイトルが「僕は、線を描く」じゃない理由をエンディングで理解できるような、とても丁寧な描写です。
 彼に水墨画の才能があったなんて、ただの偶然かもしれませんが、冒頭で涙するほど感動した作品を自分でも描いてみたいという意志があったからだろうと思います。霜介は、3年前の家族の不幸にとらわれて、“前進”していないことを友人に指摘されます。とりわけ大学生の4年間は、“前進”や“成長”が求められがちですが、そうではない人生もあっていいんじゃないかと思いました。実際には、水墨画をつうじて再生のきっかけを得ていたんだし…。
 江口洋介さんが演じた西濱は、こんなアシスタントか家政婦みたいな存在であるはずがないと思っていましたが、まさかあんな展開になるなんて…。役柄としては“おいしい”ところでした。悪役的な登場人物がいないので、ありがちな映画っぽい展開ではありませんが、篠田湖山と千瑛の師弟関係の確執めいたものは、主人公の霜介の物語と複線的に描かれていて、物足りなさを感じることがありません。お互いに人間的にも惹かれあっているはずの霜介と千瑛が恋愛関係にならないところも物語のテーマをはっきりさせる意味で効果的でした。
 エンドロールの水墨画とキャストの表示がめちゃくちゃお洒落です。水墨画というモチーフがなければできない表現なので、これまで観たことのない演出でした。
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