ミツヤヌス

目指せメタルロードのミツヤヌスのネタバレレビュー・内容・結末

目指せメタルロード(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

 久々に映画を観た(と思う)。ロック、パンクを題材にした青春映画はあるけれど(シング・ストリート、パーティで女の子に話しかけるには、など。ある意味でトレインスポッティングも?)、メタルは相性悪いよなあ、と思っていたらリリースされたので、喜び勇んで鑑賞した。
 結果どうだったか。悪くはなかったけれど、今ひとつ軸足が定まってなくて、とっちらかってる印象を受けた。メタルを主軸にした青春映画が作れるか、という疑問に関しては、保留せざるを得ない感じ。

 何を描くことに注力するのか、というのが定まってないように思う。メタルにのめりこんでいくオタクくんの恋愛を描くのか、抱えたフラストレーションをメタルにぶつける話をやりたいのか。メタル好きな男の子たちの青春の一幕を描く、というなら上手くいっていたように感じるけど、それは現実的な「青春の一幕」が綺麗にまとまりきるものではないと考えた場合の話だ。実際、青春は一言では語れないだろうけども。
 大きな問題として、主軸となるキャラクターにテーマが分割して与えられていたことが挙げられていると思う。向いている方向が少しずれているし、衝突もなんというか、熱意ゆえという感じでもない。
 あとは、メタルが中二病的な精神性を象徴するアイコンとして表象されているように感じた点も、個人的には気になった。ブルータルな世界観も、攻撃的なビジュアルも、文化として切り離せない部分ではあるけど、ハンターがそういうものに耽溺する理由がもう少し深く描かれていればな、と思う。折角NWOBHM期のバンドからマストドンまで、節操なしに好きなキャラクターとしてハンターを作っているのだから、ステレオティピカルなヘヴィメタル像を流用するのではなく、なぜメタルに縋ったのかを描いて欲しかった。コープスペイントも、もう少しブラックメタルを全面に押し出していればともかく、これだとKISSを意識しているようにも見えて、メタルっぽくみえればいいだろ感が出てたような(読み違えていたら申し訳ないけど)。メタルっぽいじゃだめだ、と当人が言っていたにも関わらず。正直なところ、メタルが好きというより、人と違うエログロな世界・音楽が好きな自分が好きであるようにも受け取れた。それがだめって訳じゃないし、それであそこまで上達したなら凄いけどさ。
 要約すると、ステレオタイプなメタルの描き方と、メタルに対するハンターの姿勢が見えにくかったのが気になった。

 色々言ったけど、ケビンの服がどんどん黒くなっていくのとかは好きだし、観ていて面白い箇所も沢山あった。
 特に音楽は本当に素晴らしいと思う。一曲だけしかないのは残念ながら、ベースにチェロを使ったオリジナル曲はカッコイイし、実際に劇中で流れるシーンは本当にゾクゾクする。BGMはHMの名曲ばかりが贅沢に流れて、使い所も好きだし(マーチングバンドのバックにメタル・ゴッドが流れたりとか、Shape of Youのドラムのアレンジとか最高)、HMを劇伴にした青春映画っていうだけで存在価値は十分にある。合うかはともかく。
 ケビンの垢抜けなさも好きだし、ライバルバンドの爽やかすぎるボーカルも良かった。それになにより、レジェンド総出演はほんとにビビる。
 全体的に、あんまり気に入らなかった箇所は、リアルかどうかで考えるとむしろ加点になると思う。僕自身、何かに縋りたくてメタルを聴いている訳じゃないし、綺麗にまとまるほど日常はドラマチックじゃない。でも、物語として語るからには、そこを仕上げて欲しいと思った。少なくともこの日の僕は、日常が観たくて映画を観た訳じゃないから。