タナカ

ザリガニの鳴くところのタナカのネタバレレビュー・内容・結末

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

夢物語のようだけれど、おとぎ話の世界観を持つとても綺麗な映画だった。ミステリーよりもヒューマンドラマの要素の方が強いように思う。
心が浄化されるような自然の映像美がたくさん詰め込まれており、特に砂浜からサラサラと光る海のシーンが印象的で見ていると吸い込まれそうになる。

主人公のカイアは内向的な部分が強いけれど決して人が嫌いなわけではなく、繋がりを求めたり、自分の価値観だけで物をはかって人の意見を聞き入れない等、とても頑固な部分もある。実際に存在したならば、街の社会に出ることには向かない俗世間から離れた世捨て人。
たまにカイアは1人で孤独に生きているような素振りを見せるが、実際には周囲に手助けをしてくれる人は沢山いて、あんな環境下であっても人には恵まれているように思える。
出ようと思えば出られるのだけれど、決して湿地帯から離れずに自然の中で生活する事を選んだのはカイア自身の選択であり、裁判中や人との関わり方もいつでも向こう待ちで、誰かから手を差し伸べられるのを待っているような姿勢が伺える。

ラストからも分かるように、可哀想な扱いをされているような空気を醸し出しているが、カイアは決して可哀想な人なんかではない。昔の恋人に傷つけられ、寂しいからと新しい繋がりを求めて、その相手が自分に危害を加えると分かった途端に自らの手で排除し、自分の事を完全に好いてくれている人と都合良く結ばれるなんて、とても逞しくて狡猾な人間のようにも思う。

育ってきた環境の影響でこういった人格が出来上がったのかとも思ったけれど、カイア自身が生まれた時から持っている元々の性格で、生まれるべくして生まれたのではと考えると、とても興味深くて魅力的なキャラクターだと思う。

主人公のライフスタイルはおとぎ話の住人そのものだけれど、ターシャ・テューダーのように意外とそんな生活をする者も存在するのでは?という気持ちになってくる。
あんなお洒落な生活ができたら良いな〜とは思うけれど、虫一匹すら怖がる私には夢物語だし現実的には不可能に近い。でも、やっぱり図鑑のイラストを描いて自然と共に暮らすあのライフスタイルには憧れてしまう。
もし、私にそんな生活ができたとしてもインスタとかに船越しの貝殻の写真とか、図鑑のイラストが入り込んだ家の写真とかあげちゃうと思う。この生活ドヤみたいな顔で暮らす自信しかない。
タナカ

タナカ