近年ここまで自分の倫理観を激しく揺さぶられる作品には出会えていなかった。
まァ…観ていてつらかったです。
と云うのも松山ケンイチ演じる斯波宗典の使う「救済」と云う言葉がやけに説得力を持ってこちらに迫ってくるのだ。
ちなみに僕の両親は2人とも僕が20歳になるまでに他界している。
よって両親が老いて痴呆が進行し介護が必要になるような大変な経験はしていない。
だから後は想像を働かせるしかないのだが、ショックだったのは母親の死で「救われた」と語る坂井真紀演じるシングルマザーの女性の言葉ですね。
僕なんかは夢の中でもいいから両親に会いたいと日頃思っていますし、この絆を否定したら世の中なにが残るのか?とさえ思っています。
しかしそれは斯波宗典が云うように僕も所詮は安全地帯にいる人間の一人だから云える言葉なのかも知れません。
それだけ松山ケンイチのお芝居が今回凄すぎるんですよ。それに立ち向かう長澤まさみ演じる検事の大友も押され気味に感じる。
だから、欠点を上げるとすればやや中立性に欠けている点ですかね。
殺人によって救われた側の気持ちを全面に描いている。
唯一、裁判の席で被告の松山ケンイチに人殺しと叫ぶ戸田菜穂の姿が描かれていますが、これだけでは足りない。
確かに介護から解放された間際はもしかしたら犯人に対する感謝の気持ちすら持つかも知れない。
しかし日が経つにつれ、憎悪は芽生えると思うんですよ。だって肉親を殺されたんだから。
と、信じたいですね。
【羅生門】や【天国と地獄】など黒澤映画へのオマージュを思わせる場面もありましたね。
この監督さんは無難な職人監督としてのイメージしかありませんでしたが、今回はその職人性が良く働いたと思います。良い仕事されました。