ピースオブケイク

ロストケアのピースオブケイクのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.5
今年のお正月に父が亡くなった。最後は家族が見守る中、静かに息を引き取った。晩年は要介護4と5を行き来していたけど、とにかく認知レベルが低く、私を悪人と勘違いし、罵られることもあったし、色々上手く行かないこともあったけど、私の場合は姉が2人いて一緒にケアが出来たこと、そして地域サービスの皆さんが本当に親身にケアして下さったので、何とかやりくりできたけど、例えば、姉がいなかったらとか、地域サービスがイマイチだったらとか、父がもし物を投げたり暴れたりするような人だったらどうしただろう、とふとこの映画を観ながら思った。

松山ケンイチが演じる介護士・斯波は、父親の介護と仕事の両立が出来ずに、まともに3食が食べられないという苦しい状況に追い込まれる。迷った挙句、生活保護申請を出すも、あなたは元気だから働けるでしょう、とあっさり断られてしまう。この社会には穴が開いている。一度落ちると簡単に抜け出せない、穴の底で膝を折って手をついて家族を支えていると、おかしくなってくる。ただ、お茶を溢しただけなのに、父に手をあげてしまう斯波。自身もこの苦しい介護生活から抜け出したいと思っていたが、父からも殺して欲しいと泣いて頼まれてしまう。お前のことを覚えている内にあの世に行きたい、人として死にたいと…。

「喜びも悲しみも一緒に暮らし分かち合うものにしかわからない深い感情がある。何ですか、それ?絆?それが家族をどれだけ苦しめているか。検事さん、一週間でいいから、介護を経験してみたらどうですか?あなたみたいに安全地帯から綺麗事を並べる人間が、穴の底を這う人間を余計に苦しめるんです。」長澤まさみ演じる検事大友に向かって訴えかける斯波の言葉に考えさせられる。

ピンピンころりが理想やけど、自分が晩年、寝たきりになったり、家族のこともわからないくらいにボケちゃったら、それでも生きたいと思うかなぁ…。息子に殺してくれ、と頼む気持ちも理解できてしまうかも?難しいな。

「迷惑かけてもいいんです。あたしも多分迷惑かけます。きっと、誰にも迷惑をかけないで生きていける人なんて一人もいないんです。」斯波に母を殺されたことを知っても、あんなに良い介護士さんはいない、私は斯波さんに救われたと言っていた中年女性のセリフに共感。

それにしても柄本明の演技は迫真だった。

ただ、父親プラス41人って、流石にそこまで気付かれないってちょっとリアリティに欠けるかなぁ。