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ブエノスアイレス 4Kレストア版のYKのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

これまで香港を舞台に映画を撮ってきたウォン・カーウァイ。しかし、ついに香港返還が行われるという1997年、舞台はまさかのブエノスアイレスへ。そこは香港のちょうど真反対に位置するアルゼンチンの首都。観光名所「イグアスの滝」を目指しやって来た2人の男・ファイとウィンは、喧嘩の多いカップルである。これまで何度も別れと復縁を繰り返してきた彼らにとっては、何度目かの「やり直し」の旅でもあった。しかし、こんな異国の地に来てまでも、2人は喧嘩別れをしてしまう。ファイは、これ以上ウィンからの「やり直そう」は聞きたくないと、彼から距離を置いて1人の生活をはじめる。しかしそこへ、傷を負い血まみれになったウィンがやってくるのだった。

治療のため手を動かせなくなったウィンの代わりに、彼の介護=食事から着替え、たばこまですべてにかかりっきりになったファイ。でも彼は、ウィンとの久しぶりの生活にまんざらでもない様子だった。しかし、はっきり言ってこの2人の関係がうまくいくことはない。ファイが喜びを感じていられるのは、ウィンがどこへも行けない状態=完全なファイの支配下にあるためでしかなかった。ウィンの怪我が回復しはじめたらどうなるか…。彼らは、近づきすぎると反発し、離れると求め合ってしまう関係なのだ。こう書くと、男女の恋愛でよくある話やん!となるかもしれないが、彼らに待っているのは、孤独と、誰にも頼れない苦しみだ。

物語後半に登場する男チャンは、この映画で重要なもう1人の人物である。彼はファイと同じ中華料理店で働きながら、どこへも行かず固執する2人とは異なり旅の資金を稼いでいた。そんなチャイに、ファイは少なからず影響を受ける。明言はされないが、チャンのことが好きでもあっただろう。チャンは優しい。チャンから受けたテープレコーダーの提案に、ファイが思わず泣いてしまうこともあった。でもそれよりもっと前、チャイが「好きな女性のタイプは?」とかではなく「好きな声は?」と聞いたときからそうだったかも。まもなくチャンは次の目的地へと旅立っていくが、ここからエンディングまでの流れがまた神である。ファイ、ウィン、チャンはそれぞれどこへ向かってくのか…。最後の電車のくだり、行き交う人々のインサートを挟みながら、ファイはどこかへと向かっていく(おそらく『Happy Together』を聴きながら)。ラストのラスト、普通だったら延々と続く線路を追って終わりそうなところを、この映画では「下一站」のホームに付いたところでぶつりと終わるのだ。それがなんとも趣深い。
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