シャチ状球体

2046 4Kレストア版のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

2046 4Kレストア版(2004年製作の映画)
4.5
4KUHDで再鑑賞。

一応前作にあたる『花様年華』とテイストが異なり、スー・リー・チェンのことを忘れられないチャウが複数の女性と恋仲になりながらも満たされない空虚な心を小説に投影する……という、前作にも増してペーソスを強調したストーリーだ。

永遠に失くしたものを永遠に求め続けるチャウの心境はナレーションでしか語られない。
本編の始まりと終わりはまるで小説のよう。しかし、その始めよりも遥か前にチャンの人生は始まっていて、終わりは映画上の区切りに過ぎない。
見る者を見て、追う者を追って、追われる側になれば別の物を追う。チャンの行動原理は空虚さを埋めるために空虚な恋愛を繰り返す底なし沼でもある。

一人だけ浮いているキムタクも異国の日本人役としては一応適役のように思える瞬間もあり、何度も観返していると初見時よりも効果的だと思える点(カリーナ・ラウとチャン・チェンの関係とか)とそうでない点(コン・リーが登場する以降の終盤のシークエンスがワンパターンで冗長とか)がどんどん増えてきて、『若き仕立屋の恋』はこの映画の良い部分だけを抽出してブラッシュアップした作品だったのだと気付かされた。

それでも、架空の未来世界を通してチャウの複雑な心境を探っていくストーリーが映画全体のまとまりのなさに対する免罪符になっており、煮え切らなさと奥深さの区別が段々つかなくなっていく。
そうして1000時間後に再び再生ボタンを押すのであった……。
シャチ状球体

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