真一

スマホを落としただけなのにの真一のレビュー・感想・評価

2.7
スマホ世界で
自らの存在を
キラキラアピールする
私たちが、
スマホどころか
国にも市町村にも
存在を知られていない
無戸籍者の標的に
なってしまう
というストーリー。

生まれたときに
出生届を出して
もらえなかったため、
国や公的機関に
存在さえ知られずに
いる人を「無戸籍者」
と呼ぶそうだ。

義務教育も医療も
全く受けられない。
本人確認を伴う職業に就けず、
家も銀行口座も持てない。
たとえ殺されて
遺体で見つかっても、
誰なのか特定できない。
何事においても
本人確認が求められる
現代社会では
「透明人間」に等しい。
同じ人間であるにも
かかわらず、基本的人権を
一切保証されていないのだ。

一方の私たちは、
当たり前のように
戸籍を持ち、
住民票を有している。
学校を出て仕事に就いて、
当たり前のように
銀行口座を持つ。
そしてスマホ世界で
本人確認を何万回も
繰り返しつつ、
モノを売ったり買ったり、
ゲームで遊んだりする。

こうした私たちの
「スマホな日常」は、
戸籍を持たずに
日陰で暮らす人々の目には
どう映るのだろうか。
本作品は
「スマホのある風景」
が醸し出すキラキラ感を、
これでもかとばかりに
強調する。
グロテスクなほどに。
無戸籍者の心象風景を
意識したのかもしれない。

国からも存在を
知られていない人々
であるがゆえに、
無戸籍者が
どの国に何万人いるかは
誰にも分からない。
人権団体などは
韓国に約4万人、
日本に800人程度
いると推測している。

ネットを検索したら、
2020年に大阪府で、
78歳の無戸籍の
お年寄りが民家で
餓死したという
痛ましいニュースを
見つけた。
ご冥福をお祈り申し上げます。

ただ本作品には、
無戸籍者の生涯が
どれほど悲惨かを
考えさせるシーンがない。
「ジュニョン」を名乗る
若者(イム・シワン)の
素性について、
テレビのレポーターが
「犯人は無戸籍者です」
と紹介するにとどめている。
耳慣れない言葉を聞いた
多くの観客は
「なんだ?それ」
と感じたのではないか。
さらに、若者の異常行動や
主人公ミナ(チョン・ウヒ)
による反撃シーンを通じて
「無戸籍者は怖い」
「無戸籍者はやっつけてよし」
と思った人も
いるかもしれない。
そうだとすれば本作品は、
戸籍を持てずに
苦しむ人々への
差別や偏見を
あおったことになる。

できれば本作品では、
若者の凄惨な人生を
振り返る回顧シーンを
入れてほしかった。
そうした場面を見せることで、
若者をモンスター化させた
最大の原因は、無戸籍者に
何の関心も寄せずに見殺し
にしてきた現代社会と、
そこに住む私たちにある
という強いメッセージを
発してほしかった。
設定は良かっただけに、
残念だ。
真一

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