1979年、映画『KCIA 南山の部長たち』でも描かれた朴正煕大統領暗殺事件の後、民主化に進むかと思われた韓国社会の希望を、たった一晩で行われた軍事クーデターによる権力簒奪という形で奪い去った、全斗煥による「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」と呼ばれる事件を基にフィクションを交えて映画化した実録作品。
まずは映画としての完成度、エンターテイメントとしての面白さが尋常ではない。こういった実録作品における韓国映画のクオリティの高さにはいつも驚かされます。
また、自国の歴史の闇を正面から描く製作陣の覚悟や、それを受け止め興行的にも成功させる韓国の観客の成熟度の高さにも感銘を受けました。やはり韓国映画界は日本の一歩も二歩も先を行ってますね。
作品としては1979年のクーデターを、フィクションによる想像や強調によって補完。悪の簒奪者チョン・ドゥグァン(全斗煥)vsそれを阻止せんとする軍人イ・テシン(張泰玩)の対立構造に整理し、エンターテイメント色を強めた分かりやすさを優先した内容となっています。
それでも起きた事件のほぼすべてが事実で、ソウルでたった一晩で行われた権力簒奪劇がダイナミックなカメラワークやテンポの速い編集、そしていずれも主役級の実力派俳優たちによる迫真の演技によって、圧倒的な緊迫感をもって描かれます。
出演者においては、やはりチョン・ドゥグァン(全斗煥)演じるファン・ジョンミンの演技がとにかく印象的で、韓国国民のトラウマと恨みが反映されたような、権力欲にまみれた鼻持ちならない人物像を憎たらしさたっぷりに演じています。映画を見終わる頃には顔を見るのも嫌になる程大嫌いになること必至。
嘘か本当か、本作を見た後に同じくファン・ジョンミンが本人役で酷い目に遭わされる映画『人質』を見て鬱憤を晴らすのが流行したとか笑
韓国現代史の闇の深さ。それを真正面から描きエンタメに昇華する韓国映画界の実力の高さ。そして何より一本の映画としての完成度の高さ、面白さ。
それらを存分に実感できる傑作です。これを観ないのはもったいない。今すぐ劇場でご覧ください!