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アリスのtakのレビュー・感想・評価

アリス(1990年製作の映画)
4.0
80年代のウディ・アレン作品は素敵な映画ばかりだけれど、なんか生真面目な印象がある。イングマル・ベルイマン調に物語を哲学的に掘り下げてみたり、お子様を主人公に懐古趣味に走ったり。そんなアレン先生が当時の奥様ミア・ファローを主役に撮ったのが「アリス」。都会で不自由なく暮らしてるお金もちの奥様が主人公。ある日背中に何とも言えない違和感を感じて、友人や夫がよいと勧めてくれる漢方医ヤン先生を訪れた。「心に問題がある」という先生が処方した薬は、控えめな彼女を大胆に変えてしまったり、透明人間体験をさせてくれたり。子供の学校で出会ったサックス奏者との恋、家庭、夫婦の問題をめぐる彼女の不思議な体験を描くコメディ。

自分に自信がなくてカウンセリングに通う神経質な主人公といえば、アレン映画ではお馴染みのものでアレン先生自身が演じていることが多い。本作はその役割がミア・ファローに置き換わっている面白さ。医師に持論を早口でしゃべり続ける様子といい、相手を見ずに言い訳めいたことを言う様子といい、これはいつもならアレン自身が演じているもの。透明になる時間が切れてソファの陰に隠れる場面は、「SEXのすべて」に似た場面があったよなぁ・・と思えて実に楽しい。

この映画は、いわばウディ・アレン版「不思議の国のアリス」。性をめぐる不思議の国に迷いこんだ人妻アリスが、様々な薬を使って冒険をする物語だ。ジョーと二人で透明になって街に繰り出す場面。アリスは友達の噂話を聞くのだけれど、ジョーは女性の試着室に忍び込むというのに大爆笑。男ってなんて情けない生き物(笑)。媚薬のエピソードはアレン映画らしいオチが楽しい。そして映画の最後、アリスは新しい人生を選択する。80年代のアレン映画ではミア・ファローに素敵なハッピーエンドは訪れなかった。うちひしがれた彼女は、映画館で笑顔を取り戻すくらい。「アリス」はその穴埋めであるかのような幸せな結末。でもこの映画はそうした成長物語的な結末であることが望ましいのだ。不思議の国から戻って来た少女アリスがちょっとだけ成長したように。
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