デニロ

密会のデニロのレビュー・感想・評価

密会(1959年製作の映画)
3.0
1959年製作公開。原作吉村昭。脚色監督中平康。

小姑細川ちか子は聞く。相変わらずあなたたち三月に一度なの?/もう、慣れましたから。/そんなこと言ったってあなたは若いんだから。子どもも欲しいわよねぇ。三月に一度じゃねぇ。わたしがあなたの年頃に夫がドイツにいてね・・・/そう問われている桂木洋子だって凄いんです。

東京大学法科の教授の若妻。すでに10歳ばかり年の離れた夫の教え子の法科生と爛れた関係に。暇つぶしに通っていた料理教室の帰宅中気分が悪くなった時、偶然声をかけてくれた彼。純朴そのものの若い男の子を目の前に、三月に一度の夫なんて問題じゃありませんわ。ここはじっくりと育てなければ。月に一度の勉強会に来ても目も合わせてあげないんだから。これからは夫が来たって、わたくし今日は体調が良くなくって、などと言ってやれば夫はすごすごと帰っていきます。そうしていくつかの駅が通過したわ。もはやわたしのからだはあの男のものしか受け付けないわ。今日の料理教室のズッキーニを見ただけで、もうわたしったら。

先生の奥様じゃありませんか?ベンチで俯いている女性をすぐに先生の奥さんだとわかる。月に一度先生のお宅で開かれる勉強会に幾度か参加しているからだ。清楚で可愛らしくこれぞ女性だ。アパートで同居している撥ねっ返りの妹を見ていると女性なんて、と幻滅していたが、先生の奥さんを見てからは変わってしまった。長い黒髪。つぶらで潤んだ瞳。いたずらな唇。体調が優れないんじゃありませんか。ぼくお宅までお送りします。でも、次に伺ったとき目も合わせてくれなかった。なんでなんですか。

監督ったら、こんな神社の裏山で10分間も濡れ場を撮影するなんてどういう気なのかしら。夜露で着物が濡れちゃうじゃないの。離れたくない、もし教授が死んだら奥さんは僕と、なんて真剣に伊藤孝雄君も迫ってくるもんだから。わたしもついついその気になっちゃって、ずっとあなたといてふたりで暮らしたい、なんて言っちゃったじゃないの。ワンカット10分は長いわよ、キスだって何度もしなくちゃいけないわ。もちろん濡れるのは着物だけじゃありませんわ。

とふたりの秘め事の最中、車の音とライトが遠くから迫ってくる。急ブレーキ。車はタクシーのようで、車内は争いが起こっている。しばらく殴りつける音のような気配がその場を支配する。静寂。男の荒い息遣い。男が後ろのシートから降り立って、運転席から一人を引きずり出す。車のライトに照らされてあたりを気にする男の顔がくっきりと浮かび上がる。ギラギラとした眼。流れ落ちる汗。

奥さん、僕もうだめです。テレビで殺された家族のことを話していました。まだ小さい子供がいるんです。ぼくが警察で証言すれば犯人逮捕につながるんです。駄目よダメダメ。わたしのこともかんがえて頂戴。あなたが警察で証言したらわたしのことも分かってしまって、わたしは死ななければならないわ。主人の社会的地位のこともかんがえて。奥さんのことは一言も漏らしはしません。駄目よダメダメ。わたしたちあの日おまわりさんに見られたじゃないの。あなたには言いつくろうことなんてできないわ。ぼくとずっと一緒にいたいって言ったのはうそだったんですか。分かって頂戴、わたし死ななくてはならないわ。赤ちゃんみたいなこと言わないで。ね、お願い。

自分に向かってフリはできるけれど他人には通用しない、そんな桂木洋子のラストが痛ましい。

神保町シアター サスペンスな女たち――愛と欲望の事件簿 にて
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