ナガエ

告白、あるいは完璧な弁護のナガエのレビュー・感想・評価

告白、あるいは完璧な弁護(2020年製作の映画)
-
いやー、面白かった!久しく小説を読んでないし、映画もドキュメンタリーとか実話を基にしたフィクションとかばっかり観てるから、こういうバリバリのミステリって久々って感じだったけど、これはまあよく出来てたなぁ。舞台劇でもやれそうな設定だけど、映像だからこその見せ方もちゃんとしてるし、「この話、一体どうなるんだろう」っていう展開が素晴らしい。メチャクチャ面白かった。

ざっと内容の紹介をしよう。

IT企業の社長であるユ・ミンホが、不倫相手であるキム・セヒ殺害容疑で逮捕された。義父(恐らく、妻の父親が、彼が社長を務めるIT企業の会長かなんかなんだと思う)の口利きでとりあえず保釈されたが、彼の犯行であることは明白であるように思われた。

密室殺人だったからだ。

警察がキム・セヒの死体を発見した際、同じ部屋にユ・ミンホもいた。ドアにはチェーンが掛かっており、窓には鍵が掛かっていた。人が出入りできそうな場所には、人が通った痕跡がない。状況的には、明らかにユ・ミンホの犯行だろう。しかし彼は、自らにかけられた容疑を否認している。

雪降る山奥の山荘に落ち着いたユ・ミンホは、会社の顧問弁護士から、「絶対に無罪にしてくれる」という弁護士が来るはずだからと連絡がある。山荘にやってきたのは、ヤン・シネと名乗る女性弁護士だ。彼女は、ひとしきりユ・ミンホの証言を聞く。

不倫をバラされたくなければ10億ウォン持って来いと言われ、ホテルの部屋を指定された。行くと、部屋には既にキム・セヒがいた。しばらくすると、窓から警察の姿が見え、何かおかしいと察知したユ・ミンホは、キム・セヒに「部屋を出よう」と促す。しかしその直後、ユ・ミンホは何物かに殴打され、目が覚めたらキム・セヒが浴室で亡くなっていた、というのだ。

それを聞いたヤン・シネは、「弁護人は、すべてを知らないと無罪には出来ない」と言って、一枚の貼り紙を見せる。「探しています」という文字の下に、青年の顔写真が貼られたそれを見たユ・ミンホは動揺した素振りを見せる。そして、2ヶ月前に起こったある事故の話をし始めるのだが……。

というような話です。

冒頭でも書いたけど、ホントによく出来た物語だと思います。ネタバレになるようなことは書かないつもりですけど、とにかく、映画を見終わった時に観客がたどり着いている「ゴール地点」から振り返ってみると、映画の冒頭で観客が位置することになる「スタート地点」のあまりの遠さに驚かされるのではないかと思う。特に映画の後半も後半、「驚きの真実」が明らかになって以降の怒涛の展開は見事だった。最小限の登場人物の中で、これだけ複雑で緊迫感のある物語を生み出せることが素晴らしいと感じた。

先程も少し触れたが、この物語は基本的に「雪降りしきる山荘内」のみで、「たった2人の登場人物」の間で展開される物語だ。いや、実際には山荘外のシーンもたくさんあるのだが、それらは、「山荘内で2人が話している『回想シーン』」に過ぎない。2人の会話の内容が映像として映し出されているだけであって、本質的には「山荘内で2人が会話しているだけ」という物語である。

そして、この構成だからこそ、この物語が面白くなっている。何故なら、「話している内容が『真実』である保証」などないからだ。彼らの会話が「回想シーン」として映像化されているだけであり、映し出される映像が「過去に実際に起こったこと」であるかどうかは分からない。

しかし、そのことが理解できていても、やはり「映像の力」は強い。観客はどうしても、「回想シーン」を「実際に起こった出来事」という風に受け取ってしまう。だからこそ、次々に更新される「真実」に、驚かされることになるのだ。

物語のスタートは、「ユ・ミンホが不倫相手を殺したかどうか」という話なのだが、ある交通事故の存在が示唆されることで、問題の本質が「不倫相手の殺害」ではない、ということが明らかになる。しかしだからと言って、この物語がどんな風に展開するのか想定することはなかなか難しいだろう。一部予想できることはあっても、大体の観客が「そういうことか!」と驚かされることになるんじゃないかと思う。

個人的に一番秀逸だと思ったのは、「二転三転」しまくる物語の途中である。先程も書いた通り、この物語には主張な登場人物が限られている。それはつまり、「あり得る選択肢の総数も少ない」ことを意味するだろう。そういう制約条件の中で、「なるほど!」と感じる話が展開される。「二転三転の途中」と書いた通り、それは最終的には真相ではないことが明らかになるわけだが、しかし、「仮にこれが真相だとしても、物語としてはそれなりに閉じるだろう」という、かなり説得力のある展開が描かれる。

何を書いてもネタバレに繋がりそうな物語なので、内容に触れるのはこれぐらいにしておこう。

あと、普段あんまりこういうことは書かないんだけど、キム・セヒ役の女優がメチャクチャ可愛かった。女性アイドルグループのメンバーで、女優としても出演作品が多い人のようだ。特に、長髪をバッサリ切って短髪になった感じが良い。

小説で描く場合と違って、人が演じる映画の場合、このキム・セヒの役柄が、映画の主要人物の中で最も難しい演技を要求されるように感じた。特に物語の前半は、彼女の存在感がかなり重要だと言っていいだろう。その難しい役柄を、見事に演じていたと思う。

派手な爆発も、カーチェイスがあるわけでもなく、また「不倫がバレるかどうか」みたいなやり取りもなく、シンプルに「容疑者と弁護士」のやり取りのみで勝負している物語であり、そしてそのシンプルさに負けないだけの脚本力・役者力があったなと思う。久々に、メチャクチャいいエンタメ作品を観たなという感じだ。
ナガエ

ナガエ