KnightsofOdessa

ショーイング・アップのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
3.5
[猫と鳩と創作活動] 70点

2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ケリー・ライカート長編八作目。前作『First Cow』のインタビューで"私とジョナサン・レイモンド(長年組んできた脚本家)はオレゴンを離れます"みたいなこと言ってたはずだが、今回の舞台もオレゴン州ポートランドだ。主人公リジーは展覧会を控える陶芸作家である。日々の創作活動を地元の美術学校での事務員仕事で支えている。大家で隣人のジョーも芸術家で、二人とも展覧会を間近に控えているが、少しだけ先に始まるジョーはリジーよりも忙しく、リジー宅の湯沸かし器の故障を直してくれない。不労収入があって、いつでも創作活動に注力できるジョーをリジーは羨んでいるのだが、彼女の普段の行動を見る限りでは、美術学校で勤務しているということで外界や同業者、その創作的行動と繋がってるという一面は無視できない。彼女は一人になったら確実に引きこもるだろう(事実、美術学校での仕事を斡旋したのは同じ職場で働く母親っぽい)。それを証明するかのように、才能があるのに表舞台から遠のいた兄ショーンが登場する。彼の存在は、創作活動を続けることへの潜在的不安の具現のようでもある。物語の合間には美術学校の生徒たちが創作活動に明け暮れる姿を映しているが、実際にそれを続けて生活を出来る人間は片手で数えるほどだろうし、そこからこぼれ落ちてしまった人たちはリジーのように細々と続けるか、止めてしまうかの二択になってしまうだろう。だからこそ、不労収入があって、かつ社交的なジョーを羨むしかないのだ。

リジーは猫を飼っているのだが、ある夜に猫がバスルームで鳩をボコしている音で目が覚める。傷付いた鳩など興味のないリジーは一旦捨てるが、ジョーがそれを拾い、展覧会準備でいない時間はリジーに世話を押し付けてくる。鳩を片付けるシーンではバスルームの鏡越しに苛立つリジーを捉えていて、まさしく彼女の分身のような存在だ。羽根を傷付けられて自由に飛べない鳩もまた、ショーンと同様に潜在的不安の具現だろう。再び飛べるかという、鳩と自分を重ね合わせた不安でもあり、治癒状況が彼女の心を専有するという意味での不安の具現でもある。拾ってきたジョーが鳩をぞんざいに扱っているのも象徴的だ。
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