SANKOU

トリとロキタのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

トリとロキタ(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

祖国から遠く離れた地で、まるで本当の姉弟のように寄り添いながら生きるアフリカ系移民のロキタとトリの物語。
冒頭のアップのロキタの虚ろな表情が印象的だった。
これは後に就労ビザを獲得するための面談のシーンであったことが分かる。
彼女は家族を助けるために仕送りをしているのだが、彼女をベルギーまで密航させた仲介業者に搾取されてしまい満足な金額を送れない。
しかし就労ビザさえあればもっと金を稼ぐことが出来る。
既にビザを獲得しているトリの姉であると偽ることによって、彼女もビザを獲得しようとするのだが、面談でパニック発作を起こしてしまい失敗に終わる。
ロキタとトリはベティムが経営するイタリアンレストランで歌を歌って稼いでいるが、実は裏では麻薬の運び屋をさせられていた。
そしてベティムは明らかにロキタに性的な要求もしている。
家族のためにお金を稼がなくてはならない彼女に選択肢はない。
まだ子供といってもいい年齢なのに、社会の闇の部分で生きることを余儀なくされるロキタ。
人生の沼にはまってしまった彼女だが、唯一の救いが側に寄り添ってくれるトリの存在だった。
そしてトリもまたロキタを必要としている。
危うく車に轢かれそうになりながら一目散にロキタに駆け寄るトリの姿が印象的だった。
二人は他人には分からない深い絆で繋がっている。
しかし就労ビザを得られなかったことで、ロキタはさらに危ない仕事に手を出さなくてはならなくなる。
彼女は携帯を奪われ、郊外の建物に閉じ込められ、明らかに大麻と思われる植物の管理を言い渡される。
トリと連絡を取ることも許されない。
それでも例え引き離そうとしても、誰にも二人の絆を断つことは出来ない。
トリはベティムの車に忍び込み、隔離されているロキタに会いに行く。
その方法がとても賢くて感心させられた。
トリは少量の麻薬をこっそり盗んで売りさばき、仕送りをするためのお金を稼ぐことをロキタに提案する。
しかし闇の世界を生きる連中を相手にするには、二人はあまりにも無知で幼すぎた。
あまりにも救いのない結末に唖然とさせられた。
しかし、簡単に登場人物に感情移入させないドライさがこの映画にはある。
確かに日本でも海外労働者や留学生が悪徳業者から搾取されている話は耳にするし、あまりにも劣悪な環境から犯罪に手を染めてしまう彼らに同情する部分もある。
しかし一方の目線だけで物事を判断するのも危険であると思ってもいる。
この映画は偽りの姉弟の姿に寄り添いながらも、あくまでも起こった事実を冷徹に映し出しているようでもある。
だからこそ、ショックを受ける部分も大きい。
こうしている今も、世界中でトリやロキタのような移民が沼から抜け出そうと必死に生きているのだろう。
この世界は本当に理不尽だ。
それでもロキタにはもっと違う生き方が選べたのではないかと思えてならない。
無知であることは弱さでもあると改めて考えさせられた。
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