りょう

トリとロキタのりょうのレビュー・感想・評価

トリとロキタ(2022年製作の映画)
3.6
 欧州の移民問題が深刻なことは理解していますが、日本のように絶対的に拒絶することまではしていません。各国でグラデーションはありますが、なんとか“共生社会”を実現しようと努力しているはずです。それでもこんな辛辣な描写の作品が存在するのだから、そこには根深くて潜在化しがちな問題があるということもよくわかります。
 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督は、1999年の「ロゼッタ」が最初でしたが、当時はドキュメンタリータッチで素人をキャスティングする作品そのものを理解できませんでした。ほかにも何作か観ていますが、どれも短尺でかなり余白のある作風は、少し難解で敬遠しがちです。
 この物語でトリとロキタのやっていることは、思わず「やめとけ!」と言ってしまいそうになるほど、そのほとんどが短絡的で自滅的です。移民ブローカーやドラッグディーラーとか、反社会的な組織を相手にあんなことをすれば、それがどんな結果になるかなんて、冷静に判断すればわかるはずなのに、そこまで追いこまれてしまっているということなのでしょう。トリはとても賢い少年なのに、そのアタマを悪知恵ばかりに働かせています。
 この作品のメッセージは、そういう社会の悪循環が蔓延していることの指摘と、それを放置している政府への批判だと思いますが、ほとんど説明もなく描かれるので、表面的に解釈されてしまわないか不安になりました。「彼ら彼女らのように、移民なんて偽装難民ばかりだし、犯罪にも加担するんだから、社会の害悪にしかならない(だから排除すべき)」という主張に悪用されかねません。
 ダルデンヌ兄弟の作風の意図や真意はわかりませんが、もう少しフィクションとエンタメの要素を反映しなければ、こんなに重要なメッセージでも、ちゃんと拡散する効果を期待できません。それはあまりにもったいないことだと思います。
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