三樹夫

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの三樹夫のレビュー・感想・評価

3.6
クローネンバーグ相変わらずだなと安心する作品。肉体を中心とした謎近未来が舞台の話だが、クローネンバーグとしては未来はこうなるという予想ではなく、箱庭でこんな世界だったら面白いだろうなみたいな感覚の模様。過去作品の要素を思わせる集大成的な作品でもあり、肉体、バイオメカ、セックスとクローネンバーグの好きな要素がてんこ盛りとなっている。脳天にドリルぶち込んで血がボゴボゴ噴き出すのが超絶グッドだし、手術がセックスとなると、クローネンバーグは相変わらずブイブイいわせている。

人類の痛覚が退化し、肉体パフォーマンスアーティストが現れ、外科手術的行為が新たなセックスとなり、全体像の把握やこちらの理解が追い付かないながらも、肉体、精神、社会が相互に影響し合うも肉体を中心とした肉体至上主義的な世界が広がる。クローネンバーグ生物学やクローネンバーグ哲学、クローネンバーグ理論といった、クローネンバーグ大学で最前列に座り講義を受けているような気持ちになる。
話としては、主人公は政府機関と手を結んでいる潜入捜査官で、暗殺部隊のエージェントもいるという筋だけ抜き出せばド直球エンタメの潜入捜査ものなのだが、そういったエンタメ要素をはるかに凌駕するクローネンバーグみがあり、一回観ただけでは話はよく分からない。下手したら何回観ても話はよく分からない。
クローネンバーグ作品のナンバー1バイオメカは『裸のランチ』に出てくる肛門ゴキブリタイプライターか『ヴィデオドローム』のキャンサーガンだと思うが、本作からも魅力的なバイオメカが飛び出す。胎内を彷彿させるとんでもなく寝つきの悪そうなベッド、男性器的な物がくっ付いた食欲を失せさせるような食事補助椅子、女性器的な操作リモコンと、観ている間は最高だぜと思いながらも、知り合いの家にお邪魔した時にこういった家具で統一されていたら凄まじい恐怖心を覚えるだろうな。

内なる美が精神的な美しさのことを指すのかと思ったら内臓の美しさ競いあってて笑った。耳男にいたっては出てきて速攻ボロカスに言われる始末。ここらへんはクローネンバーグの美学なのだろうか。美学と言えば、ラングとソールはやり方こそ違えど結果辿り着くゴール地点は同じなのに、一方は批判的に描かれているように見え、一方は肯定的に描かれているように見えるのは、クローネンバーグ美学的に無理矢理変えるのは美しくなくて、自ずと変化してそうなるのは美しいということなのだろうか。
ソールは消化機能や嚥下機能の低下から食事時は常に苦悶の表情を浮かべているというがあるが、この映画の食事シーンはすべて不味そうという逆宮崎駿状態。出てくる料理もベチョベチョの何か、紫色のチョコバーなどほんとに不味そう。
三樹夫

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