るか

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのるかのレビュー・感想・評価

4.1
「悦び」に対する価値観の違いでかなり困惑するが、人類が肉体的に進化するという作品は今までなかったので非常に興味深かった。
基本的にこの作品は、人類の進化というテーマを中心にそえ、それを阻もうとする勢力と逆に受け入れようとする勢力の対立構造の中で葛藤する主人公のアーティストが描かれていく。作品序盤では主人公自身の「加速進化症候群」という謎の臓器が勝手に生み出され続ける病に抗うべく、それらを摘出しその過程をアートとして昇華させていた主人公だったが、最終的には自ら新たな機能を持つ臓器を意識的に生み出し、フィジカルな進化を受け入れる。近現代では、自然の猛威すらもどこかで操作できるのではと勘違いしてしまっている我々に、内部からのネイチャーを直視させることでそれらが驕りであり、グロテスクな結果を招くことを視覚的に示してくれた。
ビジュアル的にもギリシャで撮影されたという近未来という設定を守りつつどこか遺跡の様な古典的な雰囲気が醸し出される街並みは思わずスクリーンセーバーにしたくなる。そして語らなければいけないのは、独特すぎる有機ガジェットたちだ。子供殺しのシーケンス直後の廊下からのベッドのショットは不気味。蠢く梅干しを半分に切ったようなベッドの上で謎の老人が呻き声をあげて後ろでは独特なBGMがけたたましく鳴り響いていた。あとガジェットとは少し離れるかもしれないが主人公の腹につけられた「窓」は最も衝撃的だったかもしれない。めちゃくちゃ気持ち悪かった。いくら痛みを感じないからといってそこにジッパーは付けないでしょうよ…その後の内臓フェラもまた衝撃。「中身をこぼさないようにな」じゃあないよ。

ただ、前述の通り悦びに対する概念が作中と現実世界で異なりすぎてキャラクター達が感極まっていても「おおぉぉお、そうなんだね…」と感情移入どころか引いてしまうのも事実。手術が新しいセックスになり得るかは正直わかりかねる。
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