湯

聖地には蜘蛛が巣を張るの湯のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.5
かなり重いが良作。
「またフェミニストが…」という視点は1回捨てて観て欲しい。

舞台はイスラム教の“聖地”、マシュハド。ざっくりいうと、ある事件の解決のため、女性ジャーナリストが奔走する作品だ。実際に起きた事件を基につくられているが、前情報がなくても個人的には問題ないと思う。

●一応事件の簡単な説明
本作は2000年代初頭、実際にイランで起きた事件を描いている。「Spider Killer」と呼ばれた犯人は、16人の売春婦たちを殺した。この事件が他と違うのは、犯人が非常に心身深い人間であったこと。

犯人の持つ身勝手な宗教観では、売春婦=殺されても当然の生き物という認識だった。つまり、自分の犯行は「街の浄化」だと考えていた。しかし、逮捕されればただの殺人犯。当然、逮捕後は裁判が行われ、犯人には死刑が言い渡された。

通常であれば、世論は犯人を激しく非難するはずだが、当時はその罪を「宗教的な務めを果たした」と正当化する市民やメディアがいた。根深い女性蔑視の思想が強く表れた事件ともいえる。

●感想
劇中では、殺された売春婦たちと他の女性たちの対比が印象的だった。化粧もそうだが、肌が違う。売春婦たちの肌はボロボロの状態に見える。
彼女たちは生活のため、分厚い化粧を毎日のようにして夜に街へ出ていく。そして、その多くはクスリ漬けでもある。同じ女性でも、生きる世界が違うと暗示しているようだった。

犯人逮捕後は、予想外(現地では予想外ではなかったのかもしれないが)の世論の反応に、犯人の息子が「味方がたくさんいる」と感じ始める。自分が跡を継ぐ可能性すら口にするようになる。この国では、誰もが同じような事件の犯人になり得るのかもしれない。

映画に限らず、女性蔑視への批判・皮肉をテーマにした作品が公開されると、アレルギー反応を起こす人も多い気がする。「またフェミニストが何か言ってるよ」といった感じで。
ただ、本作には、女性の社会的地位の保護以前に命の問題がある。女性たちは、自らの生活を守るため必死に生きているにもかかわらず、汚らわしいからという理由で殺人の対象となる。そして、殺人後も存在を批判される。これは、直視しないといけない事実だと思う。
湯