ピースオブケイク

あちらにいる鬼のピースオブケイクのレビュー・感想・評価

あちらにいる鬼(2022年製作の映画)
4.5
いやー、瀬戸内寂聴さんのお話と知らずに観出して、途中で主役の女流作家を演じる寺島しのぶが突然出家すると言い出したところで、うん?もしかして?と思い調べてみたら、何と寂聴さんの不倫相手だった井上光晴さんの娘さんである直木賞作家の井上荒野さんの小説だと知り、びっくり🫢 すごい関係性。一番すごいのが、井上光晴さんの奥さん、映画では広末涼子が演じていたけど、この人は、寂聴さん以外にも旦那さんにたくさん不倫相手がいたのを知っているんやけど、その人たちに対して普通に、いや普通以上に、まるで自分の友達のように優しく接しているんやね。これは、私のような凡人には到底理解できない感情、というか心理構造。きっと人としての器の大きさが並外れていて、全ての関係する人を包み込んでしまえる人だったのではないかと思う。映画では広末が、裏では色々な葛藤を抱えつつ、でも、不倫相手が悪いわけではない、むしろどーしよーもない男に惚れ込んでしまった同士として見て接していた、という役どころを上手ーく演じていたと思う。どーしょーもない旦那役は豊川悦司。女性の心を惹く会話術が上手かった。冒頭の寂聴さんの着物を誉めるところや占いの下りはお見事。そして寂聴さんが出家後に奥さんの広末涼子とうなぎを食べるシーンでの涙が印象的。この涙で本当に惚れ込んでいたことに広末も気付くけど、嫉妬や憎しみの感情ではなく、夫と寂聴を憐れんでいるように見える表情が上手かった。そして寂聴さん役の寺島しのぶ、この人は本当にどんな役どころも全力体当たりですごい!ベッドシーンも観る人によってははしたないと感じる方もおられるかも知れないけど、不倫で燃え盛る2人の演技としては凄く自然で美しい、と感じたし、出家のシーンでは当たり前に頭を丸めておられました。バリカンが、当たり前やけど電動ではなく、手動式だったのが昭和っぽくリアリティがあったな。最後のタクシーの中での涙は、本当に寂聴さんに成り切っておられ、お見事でした👏それにしても不倫相手の女性と夫が亡くなってからも家族ぐるみの長いお付き合いができているのはホント凄いと思う。面白かった。