りっく

あいたくて あいたくて あいたくてのりっくのレビュー・感想・評価

3.8
特段驚くような展開はないし、自分の身近で起こっていても可笑しくないような、ちょっとしたいい話の域に収まっているものの、そのこじんまりとしたサイズ感が素晴らしく、愛すべき小品という言葉がぴったりの一作。

いい年齢を迎えているからこそ、人生の後輩たちを励ますことはあっても、励まされることが少なくなってきた今日この頃。恋愛という言葉を聞くだけでむず痒く、思わず照れ隠ししてしまう中年男女たち。

だが、一方でこの齢でもチャーミングであることは唯一無二の魅力だ。場面場面でいまおかしんじは、愛嬌のようなものを忘れない。男と女が無意識にすれ違う場面での、くるっと回って互いに身を交わす様は、まるでダンスのようだ。

ただただ亡き夫の味を再現できたカオマンガイを、美味しいと言って頬張るだけ。あるいは冒頭で映し出される通勤の風景を、自転車で並走するだけ。あるいは不意にキスをして互いに困惑するだけ。それだけで心が弾み、ささやかな幸せが身を包むのは何故だろう。
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