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プアン/友だちと呼ばせてのWNTのレビュー・感想・評価

プアン/友だちと呼ばせて(2021年製作の映画)
4.0
それでも友と呼ばせてほしい。
切なくほろ苦い最後の気持ちを伝える旅。

ウードは車の中で父親のラジオを聴きながら連絡先を整理していた。どんどん消えていく連絡先の名前たち。家族以外に残した数名の連絡先は彼にとってどんな人たちなのだろう。

NYでバーを経営しているボスは明るく楽天的で誰からも好かれるような魅力溢れる男。
タイで暮らす親友のウードから久しぶりにかかってきた電話、そこでボスが聞いた話はウードが白血病にかかり余命宣告をされたという話だった。
ボスはウードに会うためタイに帰り、ウードの最後の願いを聞くため運転手として彼に寄り添い願いを叶えていく。

ウードの父のBMWに乗りラジオを聴きながら旅を始める。
録音テープから流れるウードの父親がDJをしていた頃のラジオ。美しい言葉と心に沁み入る音楽を聞きながら様々な過去に想いを馳せる。
元カノごとに思い出の詰まった音楽テープもあり会いにいく元カノによってテープを変える。
音楽はその頃の記憶を鮮明に思い出させる記憶のツールのひとつよね。

車で様々な場所に行きタイを彼らと共に旅行しているような気持ちになる、美しい景色や日常たち。

死ぬまでに何も思い残したくないと思い元カノたちに会いにいくけれど、全員が歓迎してくれるわけじゃない。
あの頃のように楽しく過ごせる人もいれば、拒絶されたり辛い思いをしたりそれぞれ反応が違う。その度に思い出す未熟だったあの頃の鮮明な気持ちといま伝えたい相手へのエール。
うまくいかないことがあっても、過去があるからいまがある。ふたりで過ごした時間は心の中に残り、いまを作り上げ支えや糧になっている。

思い残すことなく限られた時間を過ごしたい。
あの時の記憶と共に巻き戻されるように再生されていく記憶たち。
そこにはいつもボスとウードは一緒にいて長く付き合いがあり親友のように互いを必要としていたことを知ることができる。
そこまで一緒にいると友情か?恋愛か?どちらを取るかといった話もありボスとウードが何故離れていたのかを汲み取ることもできる。
そしてストーリーはボスとウードがどのようにNYで出会い、何故ボスはバーテンダーになったのかという更なる過去へと掘り下げられていく。

ボスがウードに出すオリジナルカクテルのシーンが素晴らしい。
あのとき経験した甘さも苦さも全てがぎゅっと詰まっているようなカクテルたち。
見た目もそれぞれ違いウードの恋愛を側面から、第三者から見てよく捉えているデザイン。
飲むだけでその人との思い出が蘇る、唯一無二のカクテル。
思い出や記憶って香りや味、音楽に詰まっててふとしたときに思い出すんよな。

いまそれぞれ幸せそうにしている過去の恋人たちを見て、生きることに消極的だったウードも人生に目的を見つけて強く生きたいと願うようになっていく。

友達と呼ばせて。タイ語のプアンは日本語で友達という意味。
大切でかけがえのない友人になっていく、自分とは正反対の恵まれた男ボスに嫉妬しながらも彼が心配でたまらないウード。
自分が思い残すことなく、親友に幸せになってほしい、幸せでいてほしい、自分らしい人生を歩んでほしいという真っ直ぐな思い。
伝えたくても伝えられなかったこの気持ちをやっと伝えれるという人生の終着点。
自分の人生なんてこんなものと決めつけて、失った心を手放したままのらりくらりと生きていたときのボスは旅を終えたときに新しい世界を見てどう考え何を手にするのか。
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