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プアン/友だちと呼ばせてのnomovienolifeのレビュー・感想・評価

プアン/友だちと呼ばせて(2021年製作の映画)
4.2
『プアン(友だち)と呼ばせて』のオリジナルタイトルは『One Wαy of The Road』(「最後の一杯」という意味らしい)。

白血病(癌)になった若い男が、昔、ニューヨークで一緒に暮らしていたバーを経営する親友に自分の病を打ち明け、タイにまで呼び戻し、過去に付き合った女性たちに会う旅に付き合わせる。

いいことばかりではない、むしろ、贖罪ともいえる旅先での再会。人生、歩んでいれば、人を傷つけることもある。彼の中でいかに良いシナリオを描いても、思い通りに再会できないこともある。彼自身がそうであるように、彼女達もまた、今を懸命に、楽しかったり辛かったりが交差する思い出を抱えて生きている。主人公は、同じように癌で死んでいった父親のラジオ番組をカセットテープを再生しながら、目まぐるしい世界の中に溶けていく人と人の縁と、道を振り返り旅するのだ。

自分の病気を打ち明けず、元恋人たちとの最後の再会を様々なかたちで成就させていくなか、彼の最後の贖罪は、一緒に旅をする親友に対してだった。親友もまた傷を抱えた男だった。どんなに恵まれているかのようにみえる人でも、求める幸せの形はそれぞれなのだ。また思い通りに行かなくても、そこから生まれる縁もある・・・。

不思議なことに、主人公がもたらす苦々しい再会の後には、必ず光があった。中には非現実的な描写もあったが、もたらされたどの光も、主人公の再会がきっかけであったことを、誰も、当の本人ですら気づかない。それはまるで主人公の「贖罪」が許された「証明」であるかのようにも感じられた。彼の過去をほじくり返す行為が必ずしもエゴでないと感じられたのは、このもたらされる光があったからかもしれない。

死に向かう青年を主人公にしながらも、物語は淡々と進んでいき、半ばドキュメンタリーのような、ありふれたストーリーの中に、私たちの中にそっとしまっておいた箱から小さな「感情」が顔を出す。それが苦々しさと懐かしさをはらんでいて、なぜか少しさみしい気持ちにさせる。

この作品は、恋愛を描いているわけでも、人生を語るわけでも、人間関係の複雑さをうつしているわけでも、これといった強いメッセージがあるわけでも、人の本性を暴いたり、ましてはタイ人でなければならない映画でもない。しかし個として生きるということは、何か特定の出来事をハイライトすることではなく、全部がなんとなく絡み合っていて、そこに薄らとした感情が漂っていて、物や人との縁が存在するものなのかもしれない。ただ、そこにたった一人でもプアンと呼べる人がいれば、人生には意味が生まれる、そんな大切な感情を、静かに描いた映画だった。
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