Jun潤

千夜、一夜のJun潤のレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
3.7
2022.10.10

尾野真知子出演作品。
なんだかんだ海ってやっぱり生命の源だから、作品のメインビジュアルを張るとなるとどうも心を惹かれる。
予告を見た感じ物語もなかなか興味深かったので、今回鑑賞です。

30年前に夫が行方をくらまして以来、ずっと待ち続けている女性・登美子。
生きているかもわからない、帰ってくるかもわからない夫を待ち続け、町の人からもらう縁談の話も断り続けていた。
そんな彼女の元を、二年前に夫が蒸発し、理由を探していると語る女性・奈美が現れる。
奈美と似た境遇の登美子は、夫探しの手伝いを始める。
千夜待ち続ける登美子に、一夜の別れがもたらす変化とはー。

似た名前の「千夜一夜物語」、いわゆる「アラビアンナイト」とはどうやら関係がない様子。
しかしこの、セリフもBGMも多くなく、物語の山と谷の高低差がほぼないにも関わらず、明らかに訪れてくる登場人物たちの人生の変化を描いている構成。
大きな変化を求めているわけではないけれども、変わらないことを決めた登美子と、変わろうとする奈美を軸に、別離と再会、男と女、千夜と一夜の対比が描かれています。

待ち続ける女性、待ちきれない女性、心配する女性、そんな三者三様の女性に共通するのは、いずれも身勝手な男。
大切な人の安否に振り回される3人の女性の、強さや儚さ、必死さが描かれていく中で、不安や失恋から身勝手にいなくなっていく男たちの、なんと情けないことか。
その辺が上手く表現されていました。

また、田中裕子の優しい声や尾野真知子の儚げな声を主な音とする中で、男たちの図太い声や折れてささくれた木が刺さるような尾野真知子の声が、なかなかいや〜な感じに頭に残りました。

登美子の夫は勝手に姿を消したのだろうか、登美子の独白が事実なら、彼の船出を見送っていたのではないか。
登美子は夫を失ったことでできた心の空白を、別離として受け入れているのか、死として受け入れているのか。
奈美の夫探しに協力したり、見つかった夫を彼女に会わせたりしていたのは、いつか自分にも訪れるかもしれない再会の場面、その時の自分の心情を、試そうとしていたのではないでしょうか。
千夜は終わらず、一夜は終わる。
千夜待った登美子を変えるのは、奈美の一夜の別離。
Jun潤

Jun潤