れん

窓辺にてのれんのネタバレレビュー・内容・結末

窓辺にて(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

始まってすぐ、茂巳が喫茶店の窓際の席で座る様子を見て、光の映し方と柔らかい音の入り方に、この映画が好きだと思った。

私は、ほとんどの人が感じる恋愛感覚がわからない。だからいつも恋愛をテーマにした作品を観る時は、多くの人が普段どんな気持ちで人と接しているのかを参考にしながら、その世界に私と似た人はいないと少し疎外感を感じている。

茂巳が妻に浮気されて怒らない気持ちは近い部分もあるが、全て同じではなかった。それでも、誰に相談すればいいかわからず悩みをひとりで抱えたまま、そんな気持ちを表に出さずに淡々と日常生活を送る姿は、どこか私の日常の延長線上にあるように思えて、親近感をもって観ることができた。

だから、茂巳のまわりの人たちの反応はとても興味深かった。浮気されてるのに怒りが湧かない気持ちを理解されない、それは愛情が薄い、ちゃんと気持ちを示していないあなたが原因だ、本当はどう思ってるの、というセリフのほとんどは、私の経験で実際に友人たちに言われたこととほぼ同じで、やっぱりほとんどの人はそう思うのかと愕然とした。

そうかといって、どの場面も嫌な気持ちになることはなく、全員がその置かれた立場によって、個々で内に苦しい気持ちや悩みを抱えているのもわかり、言ってることと矛盾した行動をとっていても、自分や相手の気持ちと積み重ねてきた時間を大事に思って生きている姿がとても愛おしく感じられた。

留亜と茂巳の距離感は、観ていてとても居心地が良かった。

留亜の彼氏、優二が浮気されても怒らない人間はサイコパスだ、SFだ、と言ったのだけはかなりビックリしたけど、でも優二のまっすぐな雰囲気に全く嫌な気持ちにならなかった。逆に清々しさがとても良かった。

優二にバイクに乗せてもらった茂巳の場面は、留亜の朗読もあって、面白さと暖かさがあるセラピーのような雰囲気があった。

柔らかい雰囲気が多く流れる中、茂巳がボタン付けをしながら紗衣にスッと本音を切り込んだ場面を境に、全員がそれぞれ次の行動へと向かって進み出した描き方も良かった。

手放す、やめる、裏切る、別れる、ネガティブにとらえられる言葉に当てはまる行動なのに、どうしてあんなに暖かい雰囲気のまま観ることができたのか、まだ不思議に思うけど、どの場面にも光が平等に差していたことが大きいような気がしてる。

もうとっくに恋愛での人間関係構築は自分と別の世界のものだと理解して生きているが、ほとんどの人がイメージする愛情表現を出さない人間は感情が薄い、愛情が無いと言われてしまうことはやっぱり寂しく思う。

茂巳のような気持ちを抱えている人が、物語の中だけではなく、現実にいるということを、この映画の感想と一緒に記録しておきたい。
れん

れん