シャチ状球体

エニシング・イズ・ポッシブルのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

4.2
大学に進学する意味を見出せないカールと、彼が思いを寄せるケルサ。彼女はトランスジェンダーで、自分の過去との向き合い方や新たな人間関係の構築に悩み中。

まず、この映画で描かれるのはリプロダクティブ・ヘルス/ライツが隅々まで浸透した理想的な世界ではなく、個々人が尊重されてはいるけどいまだに差別や偏見がまかり通る現実世界。

シスジェンダーは自分の性自認について考えなくてもいいのに、トランスジェンダーであるというだけで考えざるを得ない社会構造になっている。その非対称性まで物語の中に組み込んでいるのはきちんと当事者目線を意識した脚本になっていて好印象。
また、女性スペースが男性(TERFが言うところのトランス女性のこと)によって脅かされている、というトランス排除の典型的な暴論を唱えたり、意図的にミスジェンダリングを行う登場人物が出てくるのも、昨今のインターネット等でいかにトランス女性が暴力的な発言を投げかけられているかを可視化していて素晴らしい。
そして、本来ならば背負わなくてもいい重荷を当事者に与えてしまっているわけで、これは社会を形作っている多数派の責任であることは間違いない。

特にトランス女性を巡る不当な攻撃や理不尽な差別を可視化しているという一点において☆5を付けたいところなんだけど、一応主人公の一人であるカール自身や二人の進路についてのドラマが結構希薄なのと、差別に加担していた人たちの発言が何故、どのように問題なのかが説明されないのでまったく事情を知らない視聴者にとっては親切ではないかもしれないということを加味してこのスコアです。                  

「全員の娘の安全を求めないならフェミニストじゃない」
シャチ状球体

シャチ状球体