猫脳髄

ザ・ミソジニーの猫脳髄のレビュー・感想・評価

ザ・ミソジニー(2022年製作の映画)
3.4
高橋洋は映画を通じて「彼岸」を捉えんと、おそらく「リング」(1998)のころから熱望し続けている。「霊的ボルシェヴィキ」(2017)、「恐怖」(2009)といった近作でもこの傾向は顕著である。

しかも毎度女たちは対立し、男は蚊帳の外から傍観するだけである。劇中で「男は死んだらそれでおしまいだけど、女はみんな地獄に堕ちる」「うん、女は生まれたときからそう決まってる」とあろうことか女性に言わしめ、まさに「ザ・ミソジニー」のタイトルにふさわしい。

芝居のために山荘につどった演出家と女優、そしてそのマネージャー。どうやら演出家の夫は女優に奪われたらしい。演出家は、家から飛び出した母親が娘の目の前で消え去ったという奇妙な失踪事件を語り、これを芝居にしたいと言い出す。次第に稽古と日常のあわいが溶け、山荘に不穏な空気がただようなか、女優は事件が起きたのはここではないかと疑い始める。

前半は脚本、演出、カメラワークなどとても出来が良く、あなや、今回こそ映画のなかに彼岸が顕現するかと期待した。特に中原翔子が哄笑する前半のヤマ場は見ものである。しかし、転調した後半には失望することになる。「霊的ボルシェヴィキ」に引き続き、政治的ターム(社会主義者シャルル・ペギーの「すべては神秘に始まり、政治に終わる」という発言が繰り返し用いられる)を劇作に導入して自己言及的に結末を予言するが、このまま3人芝居で進めた方がまだしも、という残念な展開をみせてしまう。

ホラーというジャンル映画の乗り越えを企図しながら常に失敗する。高橋の作品に彼岸が映し出される日は、果たしてくるのだろうか。
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